7章②

 ここまでか──

 覚悟を決めたそのとき──

 轟音が響き渡った。

 音がしたのは、入口の方からだった。

「何事だ!?」

 外には数人の男たちの姿が見えた。

「誰だ、手前ぇら?」

「失礼。商談に来たのだが、アポイントメントを忘れてしまった」

「商談だと? ふざけるな。何者だ、手前ぇら」

「おいおい。俺らのことを知らねぇで喧嘩売ってきたのか? だとしたら、とんだ間抜けだぜ」

「あなたたち・・・・・・」

ねえさん、無事か?」

 そこにいたのは広津、立原をはじめとした黒蜥蜴の一団だった。

 倉庫へ一歩足を踏み入れた。

「それ以上近づくな」樋口を引っ張り上げると、再度頭に銃を突きつけた。「それ以上近づくと、この女の・・・・・・」

 秀森が首から血を吹き出し、その場に倒れた。

 その横には、長い黒髪を後ろで無造作に束ね、口元をマスクで隠した黒服の女がいた。

 その手には短刀が握られていた。

 力が抜け、崩れ落ちそうになった樋口を支えた。

「銀・・・・・・」

「助けに来ました。遅くなってしまい、申し訳ありません」

 樋口を抱えてその場にしゃがみ込むと、手と足の縄を切った。


「なかなかやりますね。でも──」藤良が指を鳴らした。「人質を奪い返したくらいで、油断しないことですね」

 短機関銃を持った男たちが集まった。「我々の邪魔をしたことを後悔させてあげましょう」

 藤良の合図で、銃口が火を噴いた。

 埃が舞い、広津たちの姿が見えなくなった。

「やったか!?」

 視界がだんだんと晴れていく。

 その光景に目を疑った。「ばかな!? そんなはずは・・・・・・」

 広津たちが何事もなかったかの様に立っていた。

 視界が完全に晴れると、黒い外套コートを着た青年が広津たちの前に立っているのが見えた。

「だ、誰だお前は?」

「弱者に名乗る名など無い」

「ふざけるな! この死に損ないがぁ」

 男の一人が銃を連射した。

 しかし、銃弾は命中する寸前に見えない障壁に阻まれて弾かれた。

 命中したように見えた銃弾が、音を立てて地面に落ちる。

「手前ぇ、一体何しやがった」

やつがれの異能で、着弾するまでの“空間そのもの”を喰い削っただけだ」

 突如、黒い奔流が駆け抜け、一人の男の左腕が鋭利な断面を見せて切断された。

 黒外套がうごめき、黒刃となって放射されたのだ。

 うめき声が響き渡った。

「黒衣の異能者!? こいつまさか──」

「芥川・・・・・・。“ポートマフィアの黒き禍狗まがいぬ”がなんでここに?」

「こいつら、弱体化してるって話じゃなかったか?」

 芥川の名を聞き、男たちに動揺が走った。

「今さら気づいても遅ぇ」

 銃を取り出し、天井へ向けた。

「知らねぇ顔は全員殺せ!」

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