7章①

「ここ、は・・・・・・」

 樋口が目を覚ました。

 そこは倉庫の中だった。

 どれほどの間、気を失っていたのだろうか?

 照明などは無く、窓からの月明かりが倉庫内を照らしている。

 両手は後ろで縛られ、足も縄で縛られた状態で倒れていた。

 周囲を見渡した。

 壁面の所々に木箱が積まれており、周囲には短機関銃サブマシンガンで武装した男たちがいた。

 なんとかここから逃げ出さないと──

「ようやくお目覚めか?」

 武装した男たちの後ろから、二人の男が現れた。

 現れたのは、スワロークラフトの秀森と櫻本だった。

「あなたたちは誰です? それに、ここはどこです?」

わめくな。どうやら、この状況が分かってねぇらしいな」胸ぐらを掴んだ。「いっぺん痛い目見ねぇと分からねぇか?」

 樋口の顔を平手打ちしようとした。

 そのとき、櫻本が腕を掴んだ。

「血の気が多いのは、あなたの欠点ですよ」

 不服そうな顔を浮かべ、手を下ろした。

「我々はスワロークラフト。しがない運び屋です」

「そんな運び屋が私に何の用です? 私はただ、友人と買い物をしていただけですが?」

「誤魔化しは無駄ですよ。証拠は揃っているのでね」

 櫻本が写真を放り投げた。

 写真には樋口と銀が写っていた。「我々のトラックを追いかけ、どこかへ電話をしていたのは分かっています」

 迂闊だった。まさか見られていたとは──

 顔を背けた。

「それで? どこの回し者だ?」

「喋るとでもお思いですか?」

「調子乗ってんじゃねぇぞ」

 数度平手打ちした。

「それ以上はやめろ、秀森」

 白髪の太った男と、初老の男が現れた。

「この者ですか? 我々を嗅ぎ回っていたというのは」

「そのとおりです、清佐田さん」

「さすが藤良ふじよしさん、お手柄ですね。あなた方のおかげで、無事に鼠を捕まえられました」

 二人の後ろから、見覚えのある男たちが現れた。

 そこにいたのは、向井川と宮栄だった。

「双羽商会!? やはり、あなた方は繋がっていましたか」

 笑い声が響いた。

「我々が繋がっているとは、随分と短絡的な考えですね。双羽商会は我々の販売部門。いわゆる系列企業、と言ったところですかね。さて・・・・・・」樋口を見下ろした。「私は清佐田。スワロークラフトという会社の社長を務めています」

「組織の長自らお出ましとは、随分な歓迎ですね。それで? 私を捕らえて、一体何の用です?」

「あなたを人質に、そちらの情報をいただこうと思いましてね」

「私のような末端構成員のために、上が動くわけないでしょう。それに、そう易々と情報を教えるつもりもありません」

 首領直轄の遊撃隊に所属する樋口が末端の構成員であるわけがない。

 彼らを欺くための嘘だ。

「ならば少々、痛い目に遭っていただくしかない」

 秀森に指示した。

 倉庫内に平手打ちの音が響いた。

 しかし、樋口は何一つ答えなかった。

「随分としぶといですね。いい加減、喋ったらどうです?」

「・・・・・・女に手を挙げるなんて、随分と野蛮ですね」

 気が遠くなるのを必死で堪えた。

「減らず口を──」

「もう結構です」制止した。「気が変わりました。これ以上は時間の無駄ですね」

 懐から拳銃を取り出し、秀森に渡した。「殺りなさい」

 銃を受け取ると、樋口の頭に突きつけた。「そういうことだ。悪く思うなよ」

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