第40話
「あれー?清ちゃん、久しぶりー!どしたの?」
「貴方こそどうして…東栄国への入国は陛下の許しがないなら出来ないはずだろう?」
えー?堅いこと言わないのー、ここは王都じゃないんだからー、とケタケタ笑う白衣と伊達眼鏡の金髪の色男に、清良は最大限の警戒態勢を取った。
それを見た春華が、あれ、やっぱり知り合い?、と苦笑する。
「武 壊加殿だ。国王陛下の軍医にしてお妃様の兄上でもある」
「清ちゃんこそ、春ちゃんの隠密でしょ、そばにいなくていいのかな?春ちゃん、王宮にいるんじゃないの?」
君がここにいるなんておかしいよね、と探る視線に清良は、この変態医者、曲者だ、と天を仰ぐ。
表情に出さない訓練は、誰より積んだつもりなのに、この男相手には全てお見通しのような気がして気が遠くなる。
「あ、そういうこと?咲が体調悪いって手紙寄越した消印が園路だったから、てっきり春ちゃんの叔母さんに挨拶にでも行ったのか、と勘繰ってたんだけど、視察兼ねて皆で盧城に行く道中なのか」
納得したのか、壊加は甲板に座り込むと、春華を隣に座られて顔中触り始める。
耳に触れ、目元に触れ、顎に触れると手を離した。
「壊加殿、春華に何をしている?!」
「え?診察だよ、はるちゃん女の子でしょ?美容とか全然興味なさそうなんだもん、四六時中船乗ってたら肌荒れるしちゃんと診てあげないと…そういうのは僕の仕事」
任せておいて、と微笑む壊加に、春華と清良は顔を見合わせた。
この男は、本来医者なのだ。
人の顔色ひとつで体調の良し悪しに気付くほどの凄腕の医師である。
「いつかは誰かのお嫁に行くなら綺麗な顔でね…勿体無いよ、僕の大好きな春ちゃんのそっくりさんなんだから」
手に馴染ませた保湿剤を春華の頬に無理込みながら苦笑する壊加に、清良は、よろしくお願いします、と頭を下げた。
「ん?どうして清ちゃんが頭を下げるの?」
「まだ何も決まってないんだけど出来たら縁様に嫁ぎたいと私が思っている」
春華が恥ずかしそうに顔を赤らめて清良を伺い見ると、壊加は口を尖らせた。
「春ちゃんと同じ顔で同じ声でそう言ってもらえる優越感ずるいよ」
「陛下の義理の兄上がずるいとか言わないでもらいたいものだ、こちらはどう足掻いてもお身内になどなれぬのに」
清良は、心で言ったつもりでいたが、本音が口から滑り出る。
へー、君も春ちゃんが本命だね、と挑戦的な顔をする壊加に、貴方と一緒にするな、と清良は背を向けた。
争ったところで変わりはしないのだ。
春蘭の心までは所詮奪えない。
せいぜい、小さな背中を押して支えて共にいること、それしか出来ないのであれば今の距離感で十分。
引き返してきた船が、栄陽の対岸に着く頃にはすっかり朝日が昇っていた。
壊加の持ってきた医療用荷物を、無言で清良は背負うと、ありがと、重いでしょ、と壊加に労われる。
私は臣下ですから、とこれも仕事の一環、と言わんばかりの清良に、素直じゃないねぇ、と笑いながら船を降りる壊加。
川岸に降り立つと、神々しい光の中、白馬の姿が見えた。
朝日を背負ってそこにいたのは、春蘭とその側近、兢である。
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