第38話
「おはよー、朝だよー」
部屋に戻った風虎の元気な声に、兢が、しっ、と口元に指を当てた。
くぐもった声を出しながら、布団に潜ったままの春蘭が随分苦しそうである。
「渉?具合悪いの?」
「いや、極度の低血圧…昔から朝弱いんだ」
擦り寄るように、兢の腕に纏わりつく春蘭を見て、風虎は微笑んだ。
弟みたい…、と呟く声に、やらねぇからな、と兢は笑う。
そこに恋愛感情のようなものがないことは風虎だって分かっていた。
近いんだけど、そうじゃない春蘭と兢の関係は兄弟でも主従でもなく同等のようにすら見える。
そこに、女子部屋の襖が勢いよく開いた。
「あー、また兢君、春君とイチャイチャしてるー!ずるいよー?」
ずかずか入ってきたのは、単衣のままの唯だ。
風虎は、わっ、と顔を覆った。
「ずるくねーし!お前はこいつと何がしてぇんだよ?」
「そりゃーねぇ?取り敢えず、添い寝?」
添い寝で済むか、馬鹿!と怒鳴る兢に、春蘭が、唸りながらあり得ないくらい低い声で、煩い、と一言言うと場が凍りついた。
「ほら、怒らせたー、二人とも出て行きなよ、唯ちゃんは着替えて、お願いだから」
真っ赤な顔で、風虎は兢と唯を女子部屋に追い返すと、うー、と唸る春蘭の髪を撫でた。
「ずるいのはお前だよ…お妃ちゃんだけじゃなくて唯ちゃんの心まで奪ってどうする気だよ…」
「唯ちゃんは昔から私で遊ぶのが好きなんだ、別に私が好きなわけじゃない…」
なにそれ、まるで興味ないみたいにさー、とごねる風虎に、あるわけないだろ、あの子は出会った時からずっと兢しか見てないよ、と薄っすら笑うと、春蘭は漸く目を開けた。
「そういや、出会った時からお前にしか希やってたお妃ちゃんは興味ないもんなー、大好きオーラだだ漏れに俺参ったもん」
「そう?ならいいけどね…」
よいしょ、と掛け声を自分に掛けて起き上がる春蘭の目に、じー、とこちらを見る視線が重なる。
もちろん、ゴホゴホと激しい咳を伴いながら。
恨めしそうなその視線の持ち主は、咲に横恋慕している玉露だ。
「おはよう、玉露、そう睨むな、相変わらず咳すごいな、今日の視察はお休みだぞ、そうだ、咲に看病させようか?」
「結構です!咲に風邪が移ったら稚児に影響します」
何、お前、咲に近づけなくて拗ねてるの?、と春蘭は呆れたようにため息を吐いた。
風虎はその様子に首をかしげる。
春蘭は、風虎に、玉露は絶賛、咲に片恋中だ、と囁いた。
「玉露君、悪いこと言わない、お妃ちゃんだけはやめときなって、この人、こんなだけど王様よ?」
「存じてます、でも陛下は咲のこと泣かせてばかりいるから…」
ヒューヒューと苦しそうな玉露の息遣いに、わかったからもう話すな、身体に障る、と春蘭は心配そうに玉露の頬を撫でた。
酷いね、もう一回お医者にきてもらったほうがいいかも、と風虎と春蘭は顔を見合わせた。
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