最後の賭けー一抹の望みを託して

第36話

夕飯後、やはり体調を崩した咲を気遣う春蘭が客室として充てがわれた部屋の一番奥に咲と入ると、ぐったりする咲を布団に横にならせ背中を摩る。

本当なら一晩中側にいたい、心配もあったが不安そうに春蘭の手を握る咲が可愛くて仕方がない。

これが後宮の咲の部屋ならどれだけ楽か…。

隣の部屋からは、苦しそうな玉露の咳と心配そうな兢の声がした。


「何か食べないと良くならないぞ、ただの風邪で良かったじゃん、明日も視察は休んでいいからもう一口…」


きっと奥方が用意してくれたのだろう、お粥を兢に食べさせて貰いながら、玉露はすみません、と小さく呟いた。


「陛下、私は病気ではないので大丈夫ですよ、玉露君の方が心配です…」


「あれはお坊ちゃんだからなぁ…劉宝に報告したら連れ戻しに来そうで言いにくい…」


そこへ、ぞろぞろと女子達が部屋に入ってきた。

春蘭を見るなり、唯が、なぁに?王様は夜這いかしら、とからかう。


「唯ちゃん、そういう趣味は私にはないこと知ってるでしょ」


「えー?てかそもそも春君は本当に男の子なんですかー?」


ニマニマ笑いながら、唯はその愛らしい顔を春蘭に近づける。

春蘭は、腰が引けながら、ちょっと、待てって!と慌てて逃げ腰に座ったまま後ずさる。

それを瑠記が面白そうに見ていると、花梨は無言で咲の目を塞ぐ。


「お妃様にはまだ刺激が強すぎますから」


「だって春君は悪戯しても罪にならないの知ってるもん、剥くわよ!瑠記ちゃん、手伝って!」


陛下、失礼します、と瑠記まで楽しそうに背後に回ると春蘭を羽交い締めにする。

唯が春蘭の着物を剥ぐと、あららー、と微笑んだ。


「やだ、本当に真っ白、つるつるじゃない!」


スルスルと春蘭の首や肩や腕を撫で回す二人に、春蘭は身を捩って、隣の部屋にいる兢の名を呼んだ。

襖で仕切られた部屋の向こうから、病人いるんだから静かにしろよ、と呆れた兢の声がしたかと思うと、すぱーん、と襖が開く。

兢の目に飛び込んできたのは、唯と瑠記に押し倒されて涙目で剥かれてる春蘭の姿。


「わー、すっげー面白い遊びしてんじゃん、そのおもちゃ俺にも貸してくれ」


ひょい、と春蘭を掴むと担いで襖の向こうに消える兢に、唯はあーあ、兢君に取られちゃったね、と苦笑する。

春蘭を床に降ろすと、はぁ、と兢は深いため息を漏らす。

春蘭は慌てて着物を着直すと、もう、やだ、と項垂れた。


「可愛いのも綺麗なのも罪ですね…」


ゴホゴホ咳をしながら赤い顔で、天井を見つめている玉露が苦笑する。


「本当、昔からお前は!唯に遊ばれてばっかりいて!」


「そうだよ、渉ー、女の子に襲われてどうすんの」


いつの間にか部屋に入ってきた風虎に、春蘭は身構えるまでもなく押し倒される。

唯ちゃんとどこまでしたの、と真顔で睨まれた。

ああ、そうか、風虎は唯ちゃんに惚れてるんだっけ、と春蘭は苦笑い。


「何もないって!迫ってきたのも触ってたのも唯ちゃんで私は瑠記に抑え込まれて何も手出し出来なかったの」


本当に?、と首を傾げながら疑う視線に春蘭と兢は顔を見合わせて吹き出した。

あり得ない、あり得ない、と笑う二人に風虎は、ホッとしたように春蘭を離した。

いそいそと、布団に寝転がる春蘭は自然と末席、風虎は隣の布団に横になる。

兢ははいはい、もう寝ろ、明日から視察あるんだから、と二人に布団を掛けると、蝋燭の灯りを吹き消した。

コンコン、と、咳の出る玉露の背を撫でてやりながら、世話の焼けるガキばっかりだわ、と苦笑すると自分も眠りに就いた。

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