第35話
客間に入ると、奥の寝室からげほげほと苦しそうな咳が聞こえた。
「玉露の容体大丈夫でしょうか?」
清良も心配そうに寝室に目を向けた。
春華が、医者の診断は?と皆を見渡すと、黄が国王陛下が二人おります!と驚愕し、これはたまげた、と一途も開いた口が塞がらない様子でぽかん、とした。
咲、花梨、唯、瑠記も身を乗り出す。
「陛下、挨拶が遅れました、この娘を私の嫁に迎えたいと思います」
清良が春蘭に平伏する。
春華も慌てて隣で平伏した。
「栄陽領主、平 冬樹の娘で春華、と申します」
「うん、知ってる。君は清良でいいの?こいつ、堅物だよ?外交向いてないし、表情筋壊れてるし、鉄面皮で無口だよ?仕事は頗る出来るし頼りになるけど私生活つまんないんじゃない?」
苦笑混じりの春蘭に、清良が、陛下、酷い、と項垂れる。
春蘭は、清良の脳天を指で押しながら、私の身代わりにする気じゃないだろうな、不幸にしたら許さんぞ、と清良を睨み付けた。
春華も薄々気付いていた。
自分によく似たこの王様を清良が命も惜しまぬ位に大事にしている事もいざとなれば自分より王様を選ぶことも。
男の仕事は主君に忠義を尽くす、その矜持に勝てるわけがない。
だから、自分より腕の立つ自分より強い男が良かったのだ。
そこそこ腕に自信のある春華は、仕事で命を落とさない強い男の物になりたかった。
自分の身は自分で守れるだけの武術は身に付けている。
「私は私より強く賢い仕事の出来る方が良いのです」
うわー、見た目はどうでもいいんだ、と風虎が吹き出す。
清さんが男前だから俺じゃなく清さん選んだんだと思ったんだけどー、とニマニマ笑う。
風虎も十分素敵よ、と咲が笑う。
お妃ちゃん可愛いー、と咲に抱き着く風虎を引き離しながら、春蘭は、私はお前達がいいなら応援するよ、と苦笑した。
咲は、きゃー、と言いながら春蘭にしがみ付くと、春華さんは本当に陛下にそっくり!どっちが本物か迷っちゃうわ、と困ったように春華に視線を向けた。
兢が、春華にしか聞こえないよう、春華に耳打ちする。
清良さん、堅物だけど女に免疫ないよ?夜とか激しいから覚悟してて、と含み笑いをする。
「一目惚れって本当にあるのね」
唯も一部始終に納得すると頷く。
それはあるだろう、私は結様に出会ってからずっと片恋だからな、と瑠記が挑戦的な目をする。
「あのね、兢君は私のなんだからね!瑠記ちゃんに譲ったりしないんだから」
ぎゃーぎゃー言い合いが始まる中、春華は仲良しなんだな、この人達、と微笑んだ。
清良は春華の耳にこっそり囁く。
今夜は、春華の部屋に行ってもいいか?
少し頬を染め、恥ずかしそうに伺うこの人は、なんて愛おしいのだろう。
春華は、是非に、と頷いて見せた。
その様子を唇の動きを読んだ、同じく裏稼業が隠密の瑠記は複雑な表情で清良を見ていた。
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