第28話

「だったら、堕ろせって言えばいいのに」


玉露も悪態を付きながらその望まれない子を不憫に思う。

きっと、産まれたって、陛下にはこれっぽっちも似てないに違いない、と不安そうに目を泳がせた。


「言えるわけないだろ、お妃様は知らないんだから。お腹の子が陛下の稚児だと疑ってすらいないのに堕ろせなんて言ったら、どうなるか…」


清良も、頭を抱えて、結殿にそっくりだったらどう言い訳すれば、と冷や汗を流す。

春蘭は、心配する皆に目を向けると苦笑した。


「あー、いや、すまないね、皆に気を遣わせて…私自身は誰の子でもいいんだよ、子供は嬉しい、手放しに嬉しい、だから気にしなくていいんだ」


家族が増えるのは単純に嬉しかった。

正直、自分より兢との子の方が見た目麗しく、後々は次の王位に相応しい見目の子供になるかもしれない、とすら前向きに思えていた。

勿論、現段階では稚児が男か女かは分かりはしないのだけど、男の子ならいいなぁ、と微笑む。


「陛下…懐が広すぎます!俺だったら相手の男、八つ裂きにしてるよ!」


玉露が哀れんだ叫びをあげると、清良も同感、と頷く。

兢は、え、俺、やっぱり処刑か?と引きつると、春蘭は、はは、と笑った。


「私、自分の側近を八つ裂きに出来るほど人間出来てないんだよね…、兢がいないとむしろ生きていけないんだ」


何、その殺し文句、めっちゃ恥ずかしいんですけど、と兢が赤面したのは言うまでもない。

その関係、ちょっと気持ち悪い、と玉露が若干引いたのと、羨ましい限りですね、と恨めしそうな清良の真逆の反応に、春蘭は苦笑する。


「清良がいなくても、玉露がいなくても私は悲しいよ、二人とも大好きだから」


え、と嬉しそうな照れた顔の二人に、兢が、はい、仕事、と筆と紙を二人に渡す。

今から言うこと、玉露が速記、清良は清書、夕飯までに終わらせよう、と春蘭はニンマリ笑う。

なんだそれー、そんな殺文句で誘惑するなんて卑怯だー、と喚く玉露に、陛下が言われるなら本気と取っておく、と何故か上機嫌な清良。

兢が、清良さん、マジに春蘭に惚れてんじゃね、と苦笑した。

それで仕事が捗るなら人身御供にでもなるか、とクスクス笑いながら春蘭は李宰相宛の書状報告を口頭で語り出した。

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