第27話
「母上は無理だけど、瑛殿には一度挨拶に行こうか。この世界一の絶世の美女と言われた人だけど今は殆ど部屋から出れないくらい衰弱しててね…旅が終わったら会いに行こう?」
「結様のお母様ですか…」
全然似てないから安心して、と笑う春蘭の声に、前を歩く兢と風虎が振り向く。
「風虎には張女官長も紹介しなきゃね、兢と風虎の本当の母親の実の妹さんだ」
ええ?そうなのですか?!と、咲が驚愕する。
こら、暴れるな、階段から落ちるぞ、と春蘭は咲を抱え直す。
「お妃ちゃんにとっては口煩いお姉さんだろうけどな」
「そんなことないですよ…明鈴、優しいし頼りになります」
それはそうでしょうね、あの兄上の選んだ人ですから、と玉露も自慢気に胸を張る。
李 宰相と張女官長は、恋仲なのである。
正式に結婚出来ないのは、劉宝なりのこだわりというか、春蘭を一人前の国王にしてから、と決めているらしい。
李家では、とっくに嫁兼姉視点での付き合いはしてはいるけれど。
「それって、暗に私が無能だから劉宝が結婚出来ないってことなのか?」
「まぁ、はっきり言えばそうだろうよ、で、ついでに側近も役立たずだと思ってるんだぜ」
歩きながら、はぁ、と春蘭と兢は溜息を吐いた。
部屋に着くと、春蘭は女子部屋の前で咲を降ろすと、大事ないか?と心配そうに尋ねる。
暁のこともあり、階段や段差に慎重になっていた。
「はい、大丈夫です、ただ、食べ物の匂いがちょっと…」
一日中何も口に出来ないほど悪阻が酷くなっている咲の頬を撫でると、飲み物だけは飲む様に諭す。
こういう時、誰に相談すればいいか、春蘭は分かっているつもりだ。
「壊加に手紙を書くよ…女の体は私にはよく分からないし…」
ずっと食べないわけにはいかないだろう。
悪阻の時でも比較的食べやすい食材さえ教えてもらえたら…、と思う。
「それでしたら私から兄に聞いてみます、お手紙くらい書けますし」
「ああ、うん、じゃ頼んでいい?私、劉宝に視察の報告書書かなきゃだからさ」
咲は、旅先でもお仕事、と苦笑すると、直ぐに笑顔を向けた。
後でお茶を運ばせるよ、と春蘭は微笑み返すと、廊下で咲と別れて部屋に入る。
「何、お妃ちゃんとこそこそ話?」
「一日中悪阻が酷くて何も食べてないらしいからな…壊加に手紙で食べれそうな食材を教えてもらうように言った…」
あ、そっか…、と兢も罰が悪そうな顔をする。
それもそうだろう、咲のお腹の子供は、春蘭の子ではなく、兢の不貞の子なのだ。
それを自分の子供として育てて愛でなくてはならない春蘭の身を思えば安らかではいられないだろう。
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