第25話
一途は、優しい顔で皆を座らせると、語り出した。
萩 提安陛下はどうしようもないぐーたらでございました、と苦笑から入った。
春蘭は、え、と固まる。
あの方は、政務室にいたかと思うと、大図書館に脱走しては古文書ばかり読んでいらっしゃいました。
お子様が出来てからはそれはもう古文書が児童書と育児書に変わって、尚書令の執務室では怒鳴り声が響いておりました。
春蘭は、それって今と一緒じゃないか、と蒼白になった。
でも、仕事が出来ないわけではないのです、私は当時補佐の末席でしたが、我々を帰した後も三日三晩徹夜で書類を上げると、ぐったり眠り込んでおられたこともありました。
咲が、陛下みたい…、と春蘭に目を向ける。
当時は、劉宝様も尚書令ではなく、玉露位の子供の時分からやたら堅物で賢く大人びていて、当時幼児だった陛下の遊び相手にと後宮に呼ばれていました。
そんなわけでお父上の李 柘榴様が宰相をなさってました。
「おお、覚えてる、あの怖いじーさんな…劉宝のさらに親玉みたいなラスボスだったわ」
「父上怖くないですよー」
玉露は、自分の父親を悪く言われたので、口を尖らせた。
それは、玉露が優秀で末っ子だからだ、と春蘭は憎たらしそうに玉露の額を指で弾く。
「ま、そんな訳で、春蘭陛下と提安陛下の性格はよく似てらっしゃいますね」
一途は、懐かしそうに微笑んだ。
あと、物凄く腕の立つ剣士でしたよ、と付け加えた。
「それは、まぁ…直々に私に剣技も武術も馬術も教えてくれたのは父上だからなぁ…」
「春蘭陛下と遊びを通して鍛えるのが楽しくて面白くてたまらないという顔をされてましたね、貴方はあの方にとって御宝だったのですよ」
一途は、春蘭の頭をぽんぽん触れると、子供が嫌いな親などいませんからね、と諭す。
その様子を見ながら、風虎があぐらをかいて唸りだす。
「んー、でもうちの父ちゃん俺に怒ってばっかりいるじゃん、兄さんとは違って俺の時はもう官職退いてたから、礼儀とか知らんって言ってるのにさー」
「…それは…」
一途がチラリ、と春蘭に目を向けると、春蘭は苦笑して首を横に振った。
風虎は知らない。
自分が本当は、憩家の人間ではないこと。
兢の本当の弟なことも、西栄国の正当な王族の血筋である事も。
「それはお前が俺の双子の弟だからだよ」
誰もいないと思ったら、何してんだ、と仲間外れにされた兢が屋上の入り口で不貞腐れていた。
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