第18話

「西栄国国王、結 蘭の双子の弟、結 兢。私の側近だ」


「やっぱり!身分ある方って違うわね、本当素敵」


おいおい、君は義佳が好きなんじゃ、と春蘭が頭を抱えていると、おば様達が、新入り、手が止まってるよ、と注意してくる。

ああ、すまん、頑張る、と春蘭は慌てて作業に没頭した。


「あいつ、奥さんいるよ、すっごく可愛くてすっごい強い女の子」


「そうよねー、あんなに素敵な人、独身だったら争奪戦よ」


作業をしながら、無駄に美形が憎たらしくなる。

かたや初対面の女子にさえモテモテ、かたや女装して男に言い寄られる自分とのこの差はなんだ?とがっくり肩を落としていると、小屋に清良が走り込んできた。


「陛下!お話が!」


「今、手が離せないよ、こっちきて」


陛下って誰?あの子?新入りじゃないの?てか、女子でしょ、と女性達の声を耳にしながらぎこちない手付きで鋏を使う春蘭の手を清良が焦って停めた。


「危のう御座います!もう、貴方はほっとくとすぐに手伝いなどされて!怪我でもしたらどうされるんですか!」


「すまぬ…やっぱり足手まといか?」


私がしますから、とパチパチと綺麗に切り揃えると花を娘に渡して行きますよ、と清良は春蘭の手を掴んで小屋から引きずり出した。

一部始終見ていた中年の女性達が娘に詰め寄る。


「本当にあの子、国王様だったんだ…」


ええええ、と皆小屋から出てきて名残惜しそうに引きずれれて行く春蘭を呆然と見つめた。


「本当に女子と混じるとしっくりしすぎてて困ります!ただでさえ可愛いんだからこれ以上私を困らせないでください」


厳しい口調の清良の耳が赤いのが春蘭に見えた。


「お前、私に惚れた?」


「陛下のこと嫌いなんて臣下はいませんよ、特に私達は」


背の高い清良が春蘭を振り向くと、花の中に隠すように口付ける。

ジタバタ暴れる春蘭を押さえつけて深くなるそれに、春蘭は清良の舌を噛んだ。

突き放すと、口元を袖で脱ぐって、睨みつける。


「申し訳ありません、気の迷いです」


「そうだろうね、そうじゃなかったら縁家は破門だ」


春蘭は出荷の工場に走り出すと、兢に駆け寄った。

お前不器用なんだから鋏辞めさせろって清良さんに頼んだんだけど会わなかった?、と首をかしげる兢にぎゅ、としがみつく。

工場の職人からヒューと声が飛ぶ。

甘えん坊なんだわ、と笑い飛ばす兢と違って春蘭の目が笑っていないことに気付いた玉露は、波乱の予感に身震いをした。


遅れて戻ってきた清良に、何かありました?と尋ねれば、私は本気で陛下が好きかもしれん、と深く息を吐き出す始末。


「何したんだ、あんた!?」


「朝の続きだ、私はどうかしている」


馬鹿ですか、先輩は!、と怒鳴ると玉露は帳簿を清良に預けて春蘭の元に駆け寄った。


「あの人どうかしてます!やっぱり早くいつもの陛下に戻ってください、本当に困ることになりますよ」


「でも着替えないし…」


女官の衣装はすっかり泥と水で裾がドロドロで、酷い有様だ。

貸してくれた花梨にどう詫びよう、お気に入りだ、と笑っていたあの子に何をしてあげればいいんだ、と春蘭は俯いた。


「あー、どうしよ、借り物なのに…」


「誰のなんですか?」


玉露は困ったように辺りを見回すと、義佳を手招きする。

男物の服と靴を適当に見繕ってくれ、と頼む。

二つ返事で、了解してくれた義佳に会釈をする。


「いい青年だな…」


「あ、ご存知ないんですか?楊大臣様の従兄弟だそうです」


教え方も話し方もそっくりで優しくて助かりました、と笑う玉露に、春蘭はぽかん、と惚けた。

一昨年前の地外役人資料にはそんなこと一言もなかったじゃないか、と唖然とする。


「楊大臣があと継いでからって聞いたぜ?仕事出来るって職人達にもめっちゃ好感度良好」


「欲しい人材ですよねー、実際会計監査、兄上と陛下だけじゃ仕事捗りませんし…」


玉露と兢が、ねぇ、と声を揃えると、それは案に私が仕事が遅いという意味か、と春蘭が唸る。

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