第16話

手放しで喜ぶ春蘭が部屋に戻るのを見計らって、玉露が追い掛ける。

廊下の隅に春蘭を引き込むと、まゆを釣り上げて玉露は春蘭を見つめた。

ほんの少しだけ背の高い、肩幅の広い筋肉質の玉露とは違い、華奢で細い春蘭は、首をかしげる。


「あ、えと、いつもの陛下に戻って下さい、話はそれからにします…」


女装したままの春蘭に、思わず顔を赤らめた玉露は、調子狂うなぁ、と溜息。


「そのつもりだったけど知っててその反応…変装に持って来いなら視察このまま行こうかな…」


少し考える素振りの春蘭に、玉露がええええ、と奇声をあげる。

その声に兢が飛んできた。


「お前達は何してんだ?春蘭はさっさと着替えろ、そのまま視察行く気か?」


「その件なんだけど。これ、変装にぴったりじゃない!?誰も私だって気付かないよね…」


兢は、眉を一瞬寄せたがすぐに、おお、と手を打った。

イケるかも!と納得したのである。

玉露は、ダメだ、この人達、仕事を面白がってる、これじゃ毎回兄上怒らせるの無理ないなぁ、と深いため息を吐いた。


「可愛い、って言われるのは心外だけど綺麗、と美しい、は褒め言葉だと思うことにしてるから」


にこ、と笑う春蘭に、いちいち女の子みたいに笑わないでください、心臓持ちません、と玉露は部屋に逃げて行く。

その背中を見ながら、なんなの、あれ?と春蘭が兢を見上げれば、照れてるんじゃね、春蘭綺麗だから、とにま、と笑う。


「あっそー、別にお前に言われてもなんとも思わないんだがな」


「それ、酷くね?」


白を切って歩き出す春蘭の後を兢が追う。

仕草も歩き方も女装したほうがしっくりくる国王陛下。

恨言の一つも言わないこの人は、我慢することに慣れ過ぎていて感情の起伏が壊れている。

楽な方に無意識に流されやすい彼をどう支えればいいのか、兢は若干迷宮入りしかけていた。

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