第15話
朝ご飯が運ばれてくると、香ばしい焼き魚の匂いがした。
その瞬間、咲は立ち上がると口元を押さえて厠に走った。
今まで経験した事のない吐き気に、目が回りそうになりながら吐き切ると洗面台で顔を洗う。
その様子を心配して付いてきた瑠記が背中をさすってやった。
厠の前では、春蘭もオロオロしながら待つ。
流石に女子用厠に入る勇気はなかった。
「お妃様、もしかして御懐妊で御座いますか?」
瑠記が咲を抱き抱えながら、囁くと、不安そうな青白い顔で咲は瑠記を見上げる。
兢が事件を起こして丸一カ月が経つ時分だった。
咲は、蒼白な顔になって、力が抜けたように座り込もうとする。
それを支えて、瑠記は咲を抱き上げると、あまりの軽さに驚いた。
まだ、ほんの子供の重さに焦った。
それはそれは不安だろう、きっと身体もまだ完全に大人になっていない妃と、若く勇猛な元気な国王陛下の御子に違いない、と瑠記は深く息を吐いた。
厠から瑠記に抱き上げられたまま出てきた咲を、春蘭は眉を下げて心配そうに受け取ると、ぎゅ、と抱き締めた。
「陛下、お妃様は御懐妊の模様です」
瑠記が、良かったですね、と春蘭の背を叩いて宴会場に戻って行く姿を目で追いながら、咲に顔を戻すと、頬擦りする。
「でかした!咲!」
「陛下…」
咲を抱き上げたまま、その場に回る春蘭に、咲は、きゃー、とはしゃぐ。
陛下が喜んでくださるならそれでいい、記憶なんてなくてもあれはやはり陛下だったんだ、と咲にも笑顔が戻る。
その声に、何事か、と宴会場の一行も浮き足立つと、瑠記が、お妃様に稚児が出来たそうだ、と報告した。
その瞬間、兢、唯、玉露の顔色が一気に冷めた。
瞬時に腹の子が誰の子か判断付いたのである。
清良は、しまった、という顔をすると急いで客室に向かった。
父親に計画が失敗に終わったことを報告しなくてはいけない。
本当は分かっているのだ。
陛下は誰よりあの小さい方を愛している事くらい。
父の命令でなかったら花梨にこんな酷な役回りさせたくもなかった。
あの子には、普通に恋愛して好きな人に添えてやることも出来たはずなのに。
しかも陛下に恋慕の情を抱いている妹にこれからどうしてやればいいか、清良は混乱した。
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