第14話
「んまぁー、陛下?!どうされたのです?」
驚愕しきりの詠月は、腰が抜けそうになった。
「暑いし伸びたし邪魔だったので兢に切って貰いました。それを面白がって皆に弄られまして…」
詠月は、深いため息と頭を抱えながら、我が甥ながらこんなに可愛いと罪だわ、と首を振る。
折角だから衣装もね、と女装させられる始末。軽く化粧までされれば、もう開き直るしかない。
皆、口々に似合いすぎだろ、と大笑い。
「可愛い、と言われて喜ぶ歳ではないですよ」
春蘭は、はぁ、と脱力すると、詠月に付いてそのままの姿で一階に降りていく。
実際、髪が短い分体も軽い。
動き易いし一石二鳥か、と笑みを戻した。
意気揚々とする春蘭とは違い、普段鉄面皮のように表情の変わらない清良が庭から上がってきて固まった。
口をパクパクしながら、辺りを見回し、兢を見つけると縋り付く。
「どした?」
「ちょ、今通っていったすっごい美少女誰ですか?」
真っ赤な顔で狼狽える様子に、今前を通ったのは春蘭だよな?と考える素振りをして、にこ、と笑う。
「さぁ?詠月様の使用人じゃねぇか?そんなに好みなら口説いてみたらいいじゃん」
「わ、私が、か?」
清良さんも男の子でしょー、頑張って、と背中を押し、面白くなってきた、と嬉々として付いていく兢に、結隊長、悪趣味ですよ、と玉露が嗜める。
いいじゃん、春蘭がどう反応するか、楽しみだわー、と笑う兢に、どっちかと言うと清良の戸惑う姿が見ものでしょうなぁ、と一途が笑う。
一行は宴会場を覗く。
先に座っていた春蘭に、お隣いいですか、と緊張気味に座る清良。
「今、どこから来たの?」
「詠月様に頼まれて庭の花の手入れを…」
春蘭は、緊張してる?大丈夫?と無意識に清良の手を握った。
春蘭にしてみれば極々普通に自分の臣下を気遣っているだけなのだが、清良は春蘭とは気付かず、いえ、大丈夫です、と新鮮な位ガチガチだ。
遅れてやって来た女性陣が、入り口に固り中を覗く様子に、何してんの、と声を掛ける。
「しー、今すげー面白いところなんだよ」
兢が、こそこそと説明すると、瑠記も、ほう、あの清良が?と面白そうに見物に加わる。
後で絶対春君に怒られるんだから、と文句を言いながらも唯も笑いを隠せない。
咲と花梨もこっそり見物する。
春蘭は、お茶を入れて清良に差し出した。
本来なら入れてくれ、とか踏ん反り返って命令したいのだが、どうもいつもと様子の違う清良が折り入って相談でもあるのかな、と緊張気味な様子をまだかまだか、とウズウズ見つめていると、あ、と顔を赤らめて目を反らす清良。
「何?変かな、この髪…」
「いや、とてもお似合いだ、その、可愛らしい…」
清良にすれば、心底褒めたつもりだったが、春蘭は頬を膨らませた。
「あ、いや、可愛いは嫌か?美しいよ、本当に」
椅子から立ち上がる清良を見上げて、春蘭はにこり、と笑顔になる。
まぁまぁ、ほら、座って?何か話?と首を傾げれば、さらに赤くなる清良が心配になる。
「熱でもあるの?お世辞言っても何もしてあげられないよ」
ぴと、と清良の額に手を伸ばし触ると、沸騰しそうな位熱い。
清良は、頭から蒸気が出る位、赤くなるとすとん、と椅子に座った。
春蘭の手を握り直して、いつもの硬い顔で春蘭を見つめると、春蘭は何?と首を傾げた。
清良が、やばい、本当に可愛い、と思い、口付けようとした瞬間、清良の頭上に鉄拳が落ちた。
「ハイ、そこまでー。いい加減気付いてくれ、こいつ、春蘭!」
兢が、俺のお姫様に手出すとはいい度胸、と悪い笑顔を向ける。
春蘭は、ははは、なんだ、気付いてなかったの?真っ赤になって頭熱いから風邪かと思った、と吹き出す。
清良は、一気に真っ青になると、ええええ、申し訳ありません、陛下、と土下座した。
「こんな格好している私が悪かった、そっかー、お前の趣味がよく分かったわ」
「縁様、陛下は私のものですからね」
ととと、と駆け寄ってきた咲が春蘭に抱き着くと、御意に御座います、ともう顔を上げる元気もない清良に春蘭は苦笑する。
別にいいよ、お前が元気なら、と清良の頭を撫でれば、はっ、として顔を上げて、キョトンと見下ろす春蘭と目が合ってしまう。
本当に心臓に悪い、どうしてこんなに可愛いんだよ、と清良が再び赤面したのは言うまでもない。
「じゃ、元気なようだし、お茶入れて?みんなの分ね」
春蘭は隣に咲を座らせると、清良に給仕をさせた。
その様子を花梨は見ながら、兄上が最強のライバルかしら、と闘志を燃やしていた。
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