第12話
「どなた?お兄様のお友達?」
真っ白な雪の精のようなまだ十歳でいらした詠月様は、とても可愛らしい姫君だった。
淡い水色の衣装に身を包んで、私の目の前にいたのです。
それはそれは可愛くて連れ去りたくなりましたね。
その時、私は十五、先代の陛下が十八の頃です。
「憩 一途、と申します、貴女は?」
「詠月よ、お兄様は王様よ」
花のように笑うあの方は、一途は偉いわね、若いのにお仕事熱心、と私を褒めてくれたのです。
後宮の庭は、当時詠月様の好きな色取り取りの花々で溢れていたのを今でも鮮明に思い出します。
あの頃は、後宮に萩 提安陛下のお妃様はまだいらっしゃらず、後宮の華は専ら妹の詠月様だけでしたね。
私が素直に迷子になったことを伝えると、一緒に帰り道を歩いて下さってでもまだ小さい詠月様は王宮の出入りも許可されてなく結局二人で日暮れまで後宮を行ったり来たり。
そうこうしてたら、父に見つけてもらい漸く私は王宮に戻れたのですが、別れ際、詠月様がまた会える?と寂しそうに言われるので、渾身の思いを込めて茜に染まる空に私は誓ったのです。
「君がもっと大人になったらきっと迎えに来るよ、と。今思えば、本当子供の戯言でございますけど」
苦笑する一途に、春蘭は微笑んだ。
「結局迎えには行けなかったんです、陛下が生まれてお小さいうちにお妃様は亡くなられましたし、詠月様は陛下のお守りをされてましたから…」
「あ、そうなの?それは申し訳なかった、私のせいか…」
しゅん、とした春蘭にいつも間にか戻ってきた兢が、お前が母上に懐かなかったんだろ、迷惑な奴だぜ、と呆れた眼差しを向ける。
「いえ、お気になさらず、その後、こうして降下され幸せそうな詠月様に今回会えましたし後悔などありませんから」
一途は、クスクス笑うと、本当にわだかまりのない清らかな目をしていた。
風虎が、口を開く。
「あれー?でも兄さん、義姉さんは一目惚れじゃなかった?」
「これ、風虎!それはずっと大人になってから、だからな?」
へー、十五って大人じゃないのー?とケラケラからかい口調の風虎に、一途は困ったような苦笑を浮かべる。
憩 一途。三十五歳。
妻と子は城塞、蛮賀に置いてきた。
妻は、喜。子は讃。
それはそれは仲の良い家族である、と報告は上がってるんだよな、と春蘭も含み笑いをした。
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