第11話

「で、何の話をしていたの?」


真っ赤な花梨と、苦笑顏の咲と瑠記を見ながら床に座ると春蘭は、洗い立ての長い髪を掻き上げた。

漆黒の艶髪に、玉露もどきり、とする。


「鬱陶しいなら縛りましょうか?」


見慣れている咲は直ぐに春蘭の髪を纏めると、軽く括った。


「ああ、ありがとう、悪いね」


「いえ、いつもの事ですから」


極自然な二人に、花梨は思わず立ち上がった。


「私が、陛下を好きだと申したのにどうしてイチャイチャなさるんですか、貴女達は!」


「え、あ、そうなの?ごめん、気付かなかった」


咲が苦笑しながら、そうなんですよ、陛下に会った時からずっと好きだったそうで、と春蘭に説明する。

瑠記が、玉露に私が話したわけじゃない、お妃様は気付いてらしたぞ、と耳打ちする。


「で、見た目だけなら私が陛下より結様が好きだと申しました」


「私もです」


咲と瑠記が楽しそうに吹き出す。

春蘭は、あそー、そうですかー、と目を細めた。

玉露は苦笑するしかない。

確かに、綺麗な人ではある。

綺麗に整った顔に白い肌、漆黒の髪に痛みなど見られず、意志の強い瞳と笑うと可愛いその笑顔は花がほころぶようだ。

一見、女子のようなその人は、剣を手にすれば敵なしの武道家で剣術士。

だからと言って近づきにくいわけでもなく、そばに居ればいるほど嫌う理由が見つからなくなるような魅力溢れる人なのだ。

背が低く、我儘で、偏食で、仕事嫌いでさえなかったら、だが。


「それで唯先生、飛び出してきたんだ…」


冗談なのにねー、面白かったー、と笑う咲に、春蘭は、お前は兢ばっかり好きだよね、本当誰に私は嫉妬したらいいの、とげんなりした。


「そういうことなら、私も打ち明けよう、咲が稚児を産んだら次は花梨に頼もうか」


え、と場が凍った。

花梨が、信じられない、という顔をする。

咲が、挑戦的な目を春蘭に向けた。

瑠記が、引きつり笑いを浮かべる。

玉露は、この空気はまずい、と瞬時に察して、思わず立ち上がる。


「ダメです!!花梨は俺が…嫁にしますから!」


言いながら玉露は頭に血が登る感覚がした。

全ての毛穴から汗が吹き出て息苦しい。


「玉露様がですか…?」


花梨が驚いたように玉露を凝視した。

春蘭と咲が、くすり、と顔を見合わせて笑う。

上手くいったな、流石は陛下ですね、と二人で微笑みあう。


「ほう、李家と縁家ならちょうど釣り合うじゃないか!その縁組、私が受け会おう」


「陛下、あの、えと…今のは勢いっていうか、ごめんなさい」


玉露は我に帰ると、恥ずかしそうに真っ赤になって春蘭にしがみ付いた。

よしよし、とその背中を撫でながら、じゃ、また明日、と春蘭は玉露を担いで退室する。

女子達は、面白い遊びをするものだ、と感心しながら憩兄弟の部屋に入る。


「渉ー、何そいつ、また寝てるの?」


風虎が、玉露を指差して笑い出す。


「人生初の求婚して悶絶してるんだよ」


「わぁお、やるねー、おちびちゃん」


玉露を降ろすと、真っ赤な顔で不貞腐れながら、もう死にたい、と言わんばかりにぶすくれている。


「青春ですなぁ、私もそんな時期がありましたな」


懐かしそうな一途の一言に風虎が食いついた。


「兄さん、若い時誰かに求婚したの?」


「ええ、こちらの御夫人にね…可愛らしい可憐な野の百合のような方だったよ、今も十分美しいけれどね」


春蘭も黄も初耳だ、とばかりに身を乗り出した。

あの頃は、まだ私も陛下くらいの歳でしたな、父に付いて出仕したてで右も左もわからず王宮の大図書館に篭って古文書あさりばかりしていましてね、ある日、本を読みながら迷い込んだ後宮でお会いしたのです、詠月様に、と一途は話し出す。

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