第10話

一瞬の間をおいて、咲はクスクス笑い出した。


「知ってた、陛下にお会いした日からずっと花梨の目が陛下を追ってた事くらい私が気づかないと思ったの?」


可愛い顔で、花梨を抱き起こす咲に一同呆然とした。


「貴女が私に尽くすのは陛下のため、陛下の妃になりたいから、って気付いてた」


静かに花梨の背を撫でながら咲は笑顔を向けた。

泣かないで、と励ましながら宥めて行く。


「お妃様…私…」


「この旅の間、陛下の気持ち確かめてみたら?」


咲の提案に、花梨は目を瞬いた。

唯が、お妃ちゃん?!と驚愕する。


「じゃぁ、この際なので私も言いますが、見た目だけなら私は陛下より結様が好きですよ」


びし、と咲は唯を指差した。


「ちょっと待って!?兢君は私の夫だよ?」


唯はわたわた焦り出す。

瑠記は、咲の方を向いてニンマリ悪い顔をした。


「あたしもだ、お妃様、ライバルだな」


唯は開いた口が塞がらない。

何なの、どうなの、この旅、大丈夫なの?と唯が頭を抱えていると、廊下を楽しそうに話しながら通過する春蘭と玉露の声がした。

唯は間髪入れずに廊下に飛び出すと、春蘭に抱き着いた。


「唯ちゃん?私は兢じゃないよ」


苦笑しながら、離そうとする春蘭にしがみ付いて唯は叫ぶと、春君、助けて、みんなが虐めるよー、と喚き出す。


「唯先生?」


玉露と春蘭は訳が分からず首を傾げた。

そこへ、憩兄弟の部屋から顔を出した兢が、何、浮気か?と騒ぎ出す始末。


「違うからお前は黙れ!」


兢を睨むと、唯を引き剥がして背中を押してやる。


「小一時間やるから宥めてこい、命令だ」


「へいへい、了解しやしたー」


ふざけた物言いの兢を呆れた眼差しで見送ると、咲と瑠記が、部屋から顔を出した。


「陛下、お手を煩わせ申し訳ありません」


苦笑しながら、咲が謝ると、玉露が目のやり場に困り春蘭の後ろに隠れる。


「我等がからかいすぎたようで…」


参ったな、と瑠記も苦笑しながら頭を下げた。


「楽しそうだな、私も混ざりたい」


「陛下?!ダメですよ、明日の視察予定の計画立てるお約束では?」


玉露がぎょ、っと目を見開くと、まぁまぁ、兢が戻るまで遊ぼうじゃないか、と女子部屋に玉露も引き入れる。

奥にいた花梨が振り向いて、真っ赤になったのは言うまでもない。

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