第8話
「玉露君?どうしたの?」
単衣姿の洗い髪のままの咲に、玉露はかぁ、と赤くなると、背を向ける。
「瑠記殿いるか?ちょっと話がしたい…」
「あ、うん、待っててね」
首を傾げながら、扉の向こうに咲が消えると息を吐き出した。
心臓が飛び出るかと思った。
胸が苦しい…、痛い…、と思いながらも必死にきを落ち着けていると、瑠記が出てきた。
「玉露、どうした?」
「ちょっとこっち!話しにくくて」
瑠記の手を取ると、玉露は階段の踊り場まで連れてくる。
「あの、花梨が咲に危害を加えないか見張ってて欲しいんです」
「は?どういうことだ、詳しく話せ」
玉露は、どういう訳かずっと花梨が春蘭を目で追ってること、清良に何事かこそこそ指図され困っている様子を瑠記に話す。
漠然としていて確証も根拠もないが、縁家のような名門貴族が何の見返りもなく咲に仕えるわけがない。
玉露は、不安を吐露すると、瑠記も納得したように頷いた。
「そういう事は多々あるんだ、名門であればあるだけ。うちは縁家よりは格下だがあたしも花梨と立場は変わらない。陛下にその意思はないことは分かっているし私は花梨と違って陛下に忠義は尽くすが慕ってはいないよ、頗る良い人なのは分かってるけどね」
普段言葉の少ない瑠記の語りに玉露は、本音だろう、と推測した。
「清良の事は悪く思うな、あいつも父親に命じられているだけだ、それが仕事だと信じて」
「瑠記殿は誰かを好いたりされないのですか?」
急な質問に、瑠記は挙動不審になる。
言い淀みながら、ずっと想っていた人ならいるよ、とはにかんだ笑顔で答えた。
それをたまたま風呂から戻ってきた兢が目撃する。
「あらー?玉露は狸寝入りで瑠記と逢い引きですかぁ?」
「ち、違いますよ!!先輩に仕事の相談です」
ムキになって反発する玉露とは違い、赤い顔で、結様、前はだけてます、と叫ぶと瑠記は女子部屋に急いで走って逃げていった。
「何よ、あれ…てか、お前起きたなら風呂行ってこい、気持ちいいよ?今春蘭しかいないから背中でも流してやれば喜ぶぜ」
「あ、はい、すぐ行きます」
部屋に戻って湯屋の道具を持ち、全力疾走で走っていく玉露に兢は爆笑した。
「本当に懐いてますね、あの子。宰相閣下の複製のような顔なのに…」
後から上がってきた清良の声に、兢が目を向ける。
殆ど無表情、堅物、生真面目男、縁 清良。
「春蘭の本質をよく見抜いてるってことだろ。兄弟いないからさ、春蘭は玉露が可愛くて仕方ないんだよ」
そういうものですか、と静かに呟き、部屋に向かう涼しい顔に兢は、全然ニコリともしないな、と苦笑した。
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