第5話
「無難に男女別でいいか…」
春蘭が呟くと、一途が三部屋ありますが、と平然と答える。
「俺は陛下のそばを離れるわけにはいかない、兄上からそう命じられている」
がん、と譲らない顔で春蘭の腕にくっつく玉露に、咲がぎょっとした。
兢の拳骨が玉露の頭に落ちる。
「お前より護衛だったら俺のが役立つわ!ガキはすっこんでろ」
「護衛でしたら俺が!」
清良も負けずに絡んでくる。
黄は、俺は憩様と一緒ならどの部屋でも、と言い出し、一途と風虎が、げ、と顔を引きつらせ、ややこしい事態になる。
「埒があかないなぁ…じゃんけんしよう」
ため息混じりに春蘭が提案すると、早速じゃんけん大会になった。
結果、憩兄弟、黄で一部屋、瑠記、唯、咲、花梨の女子部屋、清良、玉露、兢が春蘭と同室になった。
それぞれ荷物を運び入れると、春蘭は末席の端の寝台に腰を掛けた。
「私はここでいい」
こてん、と刀を抱いて横になる。
明日から視察に工場に行かなきゃ、と天井を見上げて考えていると、お食事の時間です、と屋敷の使用人が呼びに来た。
一同、ぞろぞろと使用人に案内され、応接間であろうか、かなり広い宴会場に案内された。
花で飾られたその部屋はまるで葬式のようだった。
この国で白を基調にして飾られる花は葬儀と決まっている。
一行は、困ったように眉を寄せた。
「ああ、ごめんなさい、変な意味はないのよ、香鈴が私の髪の色と同じ白い花が好きなだけ」
柔らかく笑う詠月の隣で、まっちろのおはなだいしゅき、と両手を万歳する香鈴に春蘭は表情を和らげた。
そういうことではないのだとは気付いている。
兢が、明日の視察で真相は分かるだろ、と耳打ちしてきた。
席に座ると、豪華とは言えないがそれなりの料理が運ばれてくる。
海から遠い東栄国にあって有り得ない魚介類の豊富な満漢全席だ。
玉露が眉を寄せた。
隣にいる春蘭をちらちら見ながらどうしようか困っていると、その様子に春蘭が気付いて玉露に目を向けた。
陛下、これ食べても大丈夫でしょうか、と不安そうに耳打ちしてくる。
取り敢えず、口に入れてやばかったらこっそり吐き出しな、と玉露の頭を撫でた。
「さぁ、食べてください、皆様のために用意したのですぞ」
錦雲の一声で、皆手を合わせると食べ始めた。
勿論、春蘭と兢は食材に細心の注意をして吟味して食べた。
「普通に美味い、毒もないみたいだな」
「そりゃ私達は毒の耐性あるからいいけど…」
凄い勢いで食べている黄に、春蘭は苦笑する。
詠月も、ほほ、良い食べっぷり、と笑い出す。
香鈴もおじちゃ、しゅごーい、とはしゃぎ出す。
それを見て、一途が申し訳なさそうに恐縮した。
「私が普段何も食べさせてないみたいだろ、程々にな」
苦笑する一途は、北栄国との国境城塞、蛮賀の城主で玉露の前に歴代最年少科挙合格者として天才少年異名を持っていた人物で、昨年の開戦時、春蘭の父、萩 提安の軍師として優れた采配を振るった人物である。
憩 垓要の実の息子で、現在三十五。
人が良く当たり障りのない角のない人物で、部下からよく慕われ、さらに王家に忠実ということで、李宰相直々に同行を願い出た一行の中では最年長の大人である。
一途の武具持ち、黄 紅焔は、庶民出で蛮賀近郊の村出身の力自慢の大男で、蛮賀に貢を献上したのをきっかけに一途の独断と偏見で雇った用心棒のような人物である。
厳つい見た目とは違い、一途に忠実な心優しい青年で、歳も二十八と、頼り甲斐があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます