第4話

園路の領主、詠月は茜に染まる空を見ながら屋敷の庭を歩く。

白い花の園は、この世界では葬儀の喪の花。

彼女は、先の国王で春蘭の父、萩 提安の妹である。


「今夜は私の叔母の屋敷に泊めてもらうことになってるんだ、劉宝が手配しているから急ごう」


夕暮れまで街の花畑や花園で女子達がはしゃぐのを一緒に付き合った一行は再び馬に乗ると、園路の領主の屋敷までやって来た。

春蘭は、庭にいる詠月を見つけると思いっきり手を振った。


「叔母上、お久しぶりでございます」


詠月は、父と同じ美しい白髪のような銀糸の髪をした美しい女性で、夫は婿だが園路の花の出荷から加工まで一任されている役人だった。


「殿下…いらっしゃい」


春蘭を見て、ふわり、と微笑む笑顔に春蘭が笑顔を返す。

おっとりとしたその大人の雰囲気に、一行は息を飲む。

面識のある兢ですら、詠月の美貌に戸惑っていた。

咲は、もしかして、と手を打つと春蘭を見上げた。


「いつもお部屋にお花を贈ってくださっているのは…」


「うん、叔母上だよ、ちゃんと挨拶しようか」


春蘭に華月から降ろして貰うと、咲は詠月に駆け寄った。


「殿下、こちらの小さいお方は?」


「叔母上とは初対面かと思います、私の妃の咲ですよ」


咲は深々と一礼すると、顔を上げた。


「咲と申します」


詠月は、まぁ、可愛らしい方、と口元を手で隠して笑うと、皆様もどうぞ、と一行を案内してくれた。

屋敷の中に案内されると、詠月の夫で、下級役人の乾 錦雲が拝謁した。

跪き歓迎してくれる。

それを、春蘭が抱き起こした。


「錦雲殿、私に屈む必要はないです、父上ではないのだから」


父の代までは、王宮にも何度となく足繁く顔を出していたその人は、今は自分の臣下ではなくただの園路の領主の夫でしかない。

昨年の戦争で深手を負い、役職を返上していた。


「親戚の甥が友人と急に訪ねてきた、程度の扱いで構わないんで」


苦笑する春蘭に、そうよ、殿下がお友達と遊びに来てくれたの、と笑う詠月が和する。

そこへ奥から、おかあしゃま、おきゃくちゃまでしゅか、と小さな女の子が走ってきた。

錦雲と詠月の娘、香鈴だ。


「やぁ、香鈴!久しぶり、覚えてる?」


春蘭は、香鈴を抱き上げると、おにいちゃま、と香鈴がしがみついて来た。

二歳になったばかりの香鈴は、無邪気な子供で春蘭によく懐いていた。

頬ずりしながら春蘭は、可愛いなぁ、香鈴!と香鈴を構いながら客室に案内されると、詠月に香鈴を返した。

早速部屋割りをしなくてはならない。

与えられたのは、三部屋。

仁義なき部屋割りの戦いが始まろうとしていた。

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