第3話

花梨は、咲の世話係としてどうしても行きたいと駄々を捏ねた。

危険な旅ではないし、視察を兼ねてはいたが名家のお嬢様に長旅はどうだろう、と春蘭が兄の清良に相談すると、何あったら自分が責任取る、というので同行を認めた。

唯と楽しそうに話しながら市街を抜けた郊外を闊歩する。

咲も春蘭の腕の中できゃっきゃとはしゃいでいる。


「陛下、あれはなんでしょう?」


咲の指差す方角にくっきりとした虹が見えた。


「おー、こんなくっきりと見えるのは珍しいね」


「虹ですか?」


兢と玉露も目を凝らす。

王都育ちの玉露も虹はめったに見ないため珍しそうに目を輝かせた。

日差しの強い夏の太陽を凌ぐため、次の街で休憩しよう、と一行は先を進む。

行き先は、まずは南栄国。

王都から一番近い城塞、盧城に向かう。

弥には事前に書状で事情は伝えてある。

今回の視察で、兢には正式に唯との結婚報告をさせるつもりだ。


「弥様ってどんな方ですか?」


「普通、平凡、でもカッコいい、かな」


そう、南の国の王様は確かにカッコいい。

無骨で不器用だけど普通にいい奴。

春蘭と兢の印象は昔から変わらなかった。

真夏の空の下、次の街、園路に着く。

そこは花の栽培地域で、綺麗な花畑の続く女の子が喜びそうな街だった。

春蘭は、愛馬、華月から降りると、咲を抱き下ろす。


「一緒に歩こう」


はい、と笑ってついて行く咲を見ながら、他のみんなも馬から降りると一行はぞろぞろ歩き出す。

花梨と仲良く咲はきゃきゃ、とはしゃいで花を見て回る。

唯も、どこか嬉しそうだ。


「唯ちゃんも花とか興味あるんだね」


「春君、それ失礼!瑠記ちゃんだって好きだよね」


急に呼ばれた瑠記が、あ、いや、あたしは、とわたわたしている。

玉露と風虎が首を傾げた。


「瑠記って男だろ」


風虎の一言に、はぁあ?違う!と瑠記が怒鳴る。

キョトン、とした風虎に、あたしは、あたしは、と瑠記が真っ赤な顔で抗議すると、一途が溜息を吐いた。


「我が弟ながら申し訳ない、デリカシーの欠片もなくて。王 瑠記殿、貴女は可愛らしいお嬢さんですよ」


にこり、と笑う一途に、瑠記はますます真っ赤になった。

春蘭と兢は、それを見て、ニヨニヨ笑う。


「だって胸ねぇじゃんか!」


「いやー、何言うのー!!」


風虎のセクハラ発言に、瑠記が奇声をあげる。

咲は、自分の胸元を見てがっかりしている。

春蘭は、苦笑しながら、咲は十分可愛いよ、と、抱き寄せると、むー、と膨れ顔で春蘭を睨んでくる。

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