第4話最後の言葉

「覚えててくれたの?」


 震える唇をやっとの思いで動かし、覚えててくれた嬉しさと感動に、涙が自然と溢れる。


「忘れたことないよ。妹の沙穂と仲良かった女の子だから」


 自分が死んでしまったことへの動揺とかないのだろうか。親とか、恋人への思いとか、浮かんでこないのだろうか。


「沙穂。どこへ行ったか、知ってる?」

「はい。晃さんのご近所に住んでるお姉さんが赤ちゃんを産んで、その子に生まれ変わってます」

「そうか、あの子か。いつも笑顔で幼稚園に通ってる、あの子か。そうか。生まれ変わって、幸せならいいんだ」


 嬉しそうに微笑むその姿に、妹思いの晃さんの優しさが伝わってくる。


「その、晃さんは、亡くなっても動揺しなかったんですね」

「ここに来る前に、死神と大揉めしてね。諦めて来たら、優子ちゃんがいて驚いたってわけ」


 わたしを見る笑顔は、前と同じでなにも変わってない。


「どうして、ここにいる?もう生まれ変わったとばかり思ってた」


 言いたい。言っていいのかな。


「大好きな人、見ていたかったから」

「へぇ。誰?」

「内緒です」


 ニヤニヤしてる晃さんは、わたしの気持ちに気づいてないだろう。気づいたら、笑えるわけないもの。


 その時、晃さんが消えていくのが見えた。


 お別れの時!


「優子ちゃん。早く生まれ変わっておいで。元気な姿で、一緒に遊ぼう」


 おそらく最後だろうと思われる言葉に、焦って気持ちを言葉にした。


「生まれ変わったら、好きになってください!」


 完全に消えてしまう前に、晃さんが少し驚いた顔をして微笑み、そして、頷いてくれた。


 約束ですからね。

 好きになってくださいね!


 でも、その願いが叶わないことをわたしは、知っている。

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