第35話 シェルヴィ様は羽ばたきたい!(2)
「つ、次は、ハース様に呼ばれたガウ!?」
「これって、俺様に需要があるって事なんじゃ……にへっ」
ペットとしてかわいいフェンリアルと、普通にキモいレオル。
もちろん、狼とライオンっぽいこの2人も空を飛べない側の人間だ。
「フェンリアル、レオル」
「は、はいっ」
「はいっ」
一応、ここでみなさんの疑問に答えておこう。
みなさんが気になっているのは、どうして俺がオクトさんを呼ばなかったのか、だと思う。
簡潔に言おう。
もうオクトさんは帰った!
以上だ!
「代表として2人に聞くけど、何か俺にして欲しい事ってある?」
俺は笑顔でそう言った。
笑顔で言えば、変に気を遣われることもないと思ったからだ。
「えっ、何でもいいガウ!?」
「な、なら、あれしかないよなフェンリアル」
「も、もちろんガウ!
あれしかないガウ!」
あれしか、ない……?
そう言って、2人はどこかへ走っていった。
「あれぇ、どっか行っちゃったよ……」
そして数分後、2人が戻ってきた。
フェンリアルの手には、黒軍服のようなものが見える。
「フェンリアル、それは……?」
「もちろん、黒軍服ガウ!」
「そう!
今からハース様には、黒軍服を着ていただきます!」
「うおおおおおおおおおおおお!」
飛べない組からあがる歓声。
・・・。
「えっ、それだけでいいの?」
「はい、これ以上は耐えられない可能性がありますガウ」
なぜか鼻を押さえるフェンリアル。
その様子は、まるで鼻血を止める時のようだ。
「フェンリアルの、言う通り、です」
なぜか目を覆い隠すレオル。
その様子は、涙を堪えているようだ。
「そ、そうなんだ……」
これは深入りしない方がよさそうだ。
俺はとりあえず黒軍服を受け取った。
「じゃあ、着替えてくるよ」
「はい!
お待ちしております!」
そして数分後、俺は黒軍服を着て皆の元へ戻った。
正直、こういう慣れない格好で人前に出るのはまだ恥ずかしい。
「ど、どうかな?」
でも、そんな心配は不要どころか、逆に彼らに向けるべきだったのかもしれない。
「あぁ、これは夢ガウ……」
「あぁ、これは夢だ……」
「ハース様……」
彼らは地面に両膝を付け、俺に向かって手を重ね、涙を流している。
はっきりいって、その信仰心は神に等しい。
だからこそ、彼らの涙は本物だと確信できた。
「なんか、俺がこんな事言うのも変だけどさ、こんな俺についてきてくれてありがとう」
「うわぁーん!
そんなの、ずるいガウー!」
「ぶはぁーん!
俺様、生きててよかったー!」
「ハース様ー!」
その場に泣き崩れる隊員たち。
まさかここまで泣くとは思っていなかったが、喜んでもらえたようで何よりだ。
ほんと、たまには普通じゃないのも役に立つな。
「……ありがとう……」
ほらっ、こんな風にお礼もされちゃうしさ。
……って、今の声誰!?
というか、どこから!?
「……あいつらのこんな顔、僕初めて見たからさ……」
僕……?
あっ、思い出した。
いつぞやの死に損ないさんだ。
「別にお礼なんていらないですよ。
俺がそうしたかっただけですから」
そこで不思議な声は途絶えた。
よしっ、そろそろ皆を帰してあげないとな。
「じゃあ、飛べない組の皆またね」
「はいぃ、またぁ、いつでもぉ、呼んでぇ、くださいぃガウぅ」
「俺様、いつでも待ってますんで」
こうして、可哀想な飛べない組は笑顔で帰っていったのだった。
おしまい。
「そういえば、何か忘れているような……」
「おいハース、見るのだ!」
「シェ、シェルヴィ様……!」
その声は、雲ひとつない空から降ってきた。
急いでというより、焦って空を見上げる俺。
するとそこには、とびきりの笑顔で自由に空を飛ぶシェルヴィ様の姿があった。
「シェルヴィ様流石です!」
あちゃー、完全に忘れてた。
でも、シェルヴィ様は楽しんでるみたいだし大丈夫だよな。
うっかりうっかり、てへっ。
あんなにもか弱そうだった黒い羽が、今ではドラゴンの翼に見える。
「ふっふっふ、我はやれば出来ちゃう子なのだ!」
「それはそれは、シェルヴィ様専用のYDKですね」
「わいでぃーけー?
それは何なのだ?」
「そう言われると、俺にもよく分からないです」
「変なハース」
「色々とすみません」
「色々と……?」
結局、シェルヴィ様は俺の知らないところで空を飛べるようになっていた。
まぁ見てなかった俺が完全に悪いんだけどね、あはは……。
とりあえず、これだけは言っておこう。
「獣魔隊ばんざいっ!」
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