第36話 魔王軍幹部

「やぁハースくん、久しぶりだね」


「おひはひふひへふ、はははん。

 (お久しぶりです、パパさん)」


 この日、超超超久しぶりにパパさんが帰ってきた。

 しかも、余計な連中を3人も引き連れて……。


「もしかして、君がハースくんかなぁ?」


「はひ、ほうへふへほ……。

 (はい、そうですけど……)」


 『シェルヴィ様へ

 俺は今、芝生の上に寝かされ、とある金髪巨乳褐色美女の谷間に捕らわれています。

 しかも、挟まれた頭は動かすことが出来ず、赤ちゃんのようにあしらわれる始末。

 このような姿をシェルヴィ様にお見せするのは、教育的にもプライド的にも許されることではありません。

 でも正直に言うと、今すぐに助けて欲しいです。

 ハースより』


 彼女は、パパさんをお出迎えするために玄関前で待機していた俺を見つけると、光の速さで接近し、俺を捕らえた。

 わざわざ正装を意識して黒軍服を着用したというのに、この状況では威厳もくそもない。


「あらあら、結構好みな顔してるじゃない、うふふ」


 大胆に胸元が空いた花柄の和服、色っぽく長いまつ毛。

 でも、今はそれより……。


「ひ、ひひあ……

 (い、息が……)」


「あら、ごめんなさいね」


 はぁ、これだから関わりたくなかったんだよ。

 とは。


「ぷはっ!」


 俺はようやく開放された。

 ま、まぁ、悪くはなかったんじゃない……多分。

 って、そうじゃないよな。


 クロさんとシロさんは買い出しに行っているし、シェルヴィ様は学校にいる。

 つまり、お客様への対応は今、この俺に一任されているというわけだ。

 しっかりこなさなくては。


「はぁ、はぁ。

 それで、あなたは、どちら、様、ですか?」


 彼女はサラッサラの金髪を指でときながら、俺の目を見てこう言った。


「うちは魔王軍第1首、大剣のディアンナよ」


 よく見ると、彼女の背中には大剣があった。

 それも、魔の力を色濃く感じる大剣だ。

 でも……。


「第1首……?」


 もしかして彼女は、魔王軍幹部というやつなのか……。

 いや、決めつけるのはまだ早い。


「おいおい兄ちゃん、俺を無視するなんていい度胸してるね」


 あーもう、次から次へと話しかけやがって。

 はぁ、これだから関わりたくなかったんだよ。

 魔王軍関……以下略。


「いやいや、無視だなんてそんな……」


 俺は少し弱そうに振る舞った。


 ってか、何が無視だ!

 完全にこのディアンナとかいうやつのせいだろ。


「まぁいいや」


 話しかけてきたその男は、2本の剣を腰に携えている。

 風格からして、彼も魔王軍の猛者だろう。

 ただ、その蝶々みたいなサングラス、全く似合ってないですよ。

 もし仲がよかったなら、そう伝えてあげたい。


 彼はディアンナと異なり、全身を鉄の防具で覆っているうえ、赤髪がよく似合う男。

 だから、あんなサングラスはいらないと思う。


「俺は双剣のゲルハルト。

 一応、魔王軍第2首ね」


「第2首……」


 彼はサングラスを一瞬だけ持ち上げた後、すぐに下ろした。

 でも、その一瞬でよーく分かった。

 この男、めちゃくちゃイケメンだ。


「はっはっは、こりゃえげつない魔力量だな!

 うんうん、気に入ったぞ!

 俺はハンマーのジローナ、第3首だ!」


「第3首……」


 そして、最後の1人は上半身裸のマッチョ男。

 右手に持つハンマーは、とにかく大きく、とにかく重そうだ。


「パパさん。

 この御三方はもしかして、魔王軍幹部の方ですか?」


「おぉ、すごいね。

 ハースくん正解だよ」


「で、ですよねぇ……」


 自分の魔力を制御するようになってから、何となく相手の実力が分かるようになった。

 彼らは俺と同等かそれ以上に強い。


「今日彼らをここに呼んだのは、ハースくんに会わせるためなんだよ」


「お、俺にですか?」


「うん。

 だってハースくんは、シェルヴィの新しい世話役だからね」


「ほへぇ」


 ほぅほぅ。

 つまり、シェルヴィ様の世話役は、魔王軍幹部に会わせなきゃいけないほど重要な役職というわけか。


「えーっと、ディアンナさん」


「ん? どうしたの?」


「魔王軍幹部って、何人くらいいるんでしょうか?」


「うーんとね、うちが把握してるのは5人かな。

 でも、その2人はハースくんがよく知ってる人だよ」


「えっ、おれがよく知ってる人……ですか?」


「うんうん」


 2人、か。

 なら、ほぼ絶対必ずこの2人だと思うんだけど、そんな事ってあるのかな。

 まぁ、一応聞いてみよう。

 

「その2人ってもしかして、猫だったりします?」


「はーい、ピンポンピンポン」


 あぁ、確定だ。

 やっぱり、あの2人はただのメイドじゃなかったんだな。

 最強の黒猫と白猫。

 うん、しっかり覚えておこう。


「パパさん」


 まぁ何はともあれ、これで面倒事ともおさらばだ。


「ん?」


 でも、これも一応聞いておこう。


「この後のご予定って、決まってたりします?」


「うん、決まってるよ。

 顔合わせを終えたから、次は手合わせだよ」


「はい、かしこまりました」


 ・・・。


「なぬっ……!」


 て、手合わせって何?

 まさかだけど、この3人とやるわけじゃないよね。


「あはは……」


 俺は3人の顔をチラッと見た。

 すると、3人は俺を見て、優しく微笑んだ。


「はぁ」


 怖すぎるって話だよね。

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