第27話 シェルヴィ様は泳ぎたい!(2)
再び自分の部屋の前に移動した俺は、1度深い深呼吸をした。
「ご褒美、か」
肉じゃが、アマゴの塩焼き、かき氷……。
「って、これ全部食べ物っ!」
あぁ、だめだ。
何もいい案が浮かばない。
とりあえず、シェルヴィ様の元に戻ろう。
俺はドアを開け、自分の部屋に入った。
「シェルヴィ様、ただいま戻りました」
・・・。
「シェルヴィ様?」
この時、俺の頭の中には神隠しという言葉が浮かんでいた。
おそらく、神様によるイタズラを受けすぎたことが原因だ。
「シェ、シェルヴィ様……!」
嘘だ……。
シェルヴィ様がいないと俺は……。
「ん?
どうしたのだ?」
「はっ、シェルヴィ様……」
突然キッチンのドアが開いたかと思えば、えびせんべいを右手に持ったシェルヴィ様が出てきた。
「もう用事とやらは済んだのか?」
「はい、滞りなく」
「うむ。
なら、早くプールに行くのだ」
……え?
「あ、あの、もう1度よろしいですか?」
「だから、早くプールに行くのだ」
シェ、シェルヴィ様ぁぁぁああ!
やばい、涙が溢れそうだ。
泣くな、泣くなよ、泣くなよ俺。
「はい、俺もすぐに着替えを……」
あれ?
そういえば俺、水着なんて持ってたっけ……?
「おいハース、どうしたのだ?」
えっと、あれだ、あれだよ。
こういう時はとりあえず、シロさんを呼んでみよう。
「シロさんいらっしゃいますか?」
「なっ……!
ハース、我を無視するとはいい度胸なのだ」
俺が声を掛けると、床に魔法陣が浮かび上がってきた。
この感じ、間違いない。
シロさんだ。
「はい。
どうされました……にゃ?」
「あのー、俺が着れる水着ってありませんか?」
「水着、ですか?
確か、魔王様が使っていた水着がタンスの奥にあったような気がします……にゃ」
「ほ、本当ですか!?」
「はい、少しお待ちください……にゃ」
シロさんはそう言うと、再び魔法陣に姿を消した。
「はぁ、よかったぁ」
「おいハース……」
「ん?」
このすごい圧はなんだ……?
「我を……」
あれ、なんかやばい気がする……。
「無視するなんて……」
やばいやばい、近づいてきてる……!
「世話役失格なのだぁぁぁああ!」
「申し訳ございませんでしたぁぁぁああ!」
秘技、即土下座。
「ふん!
我は先に行って準備運動してるのだ」
「はい……。
着替え次第、すぐにそちらへ向かいます……」
「ふん!」
シェルヴィ様はバタンッとドアを開け、部屋を出ていった。
その直後、水着を取りに行ってくれていたシロさんが戻ってきた。
「戻りました……にゃ。
あら?
ハースさん、どうされました……にゃ?」
この時、俺の頭は地面につくほど下がっており、顔が死んでいたらしい。
でも、それほどまでにショックだったことは覚えている。
「あっ、大丈夫です。
少し死にたくなってただけなので……」
「大問題ですにゃ!」
なぜか、クロさんの口調でシロさんにツッコまれた。
「それで、俺の水着は……」
「はい、これです……にゃ」
シロさんが手渡してくれた水着は俺のよく知るサーフタイプの水着だった。
「おおっ!
シンプルな黒水着かっこいいじゃないですか!」
「はい。
ハースさんにとてもよく似合うと思います……にゃ」
「じゃあ早速着替えてきます」
俺は走って脱衣所へ向かった。
そして、服を全て脱ぎ、水着に着替えた。
「すみません、お待たせしました。
……って、どうしたんですか!」
「ど、どうですか……にゃ」
居間に戻ると、そこには白ビキニ姿のシロさんがいた。
真っ白な肌、引き締まったお腹、ふっくらとした胸元、そして純白ビキニ。
控えめにいって最強だ。
「とてもお似合いです」
「嬉しい……にゃ」
やばい、目のやり場に困る……。
「でも、どうして水着に……?」
「あっ、それは……。
ハースさんがプールの場所を知らないかなと思いまして……」
はい、天使降臨。
まぁ、魔族なんだけど……。
「確かに……。
シロさん。
俺をプールまで連れていってください」
「はい、お任せください……にゃ」
俺はシロさんが差し出した右手を取り、プールへと空間転移した。
この時の主導権はシロさんにあり、シロさんが自らの意思でプールへと俺を運んだ。
「到着いたしました……にゃ。
こちらがプールになります……にゃ」
「うん、広すぎるって話だよね」
そこには大小2つのプール、ウォータースライダー、流れるプールなど様々な種類のプールがあった。
しかも、ウォータースライダーは何度も捻れている楽しいやつだ。
「これ、いくらかかってるんですか……」
「分かりません……にゃ。
でも、お支払いは全て魔王様がしてくれています……にゃ」
「あはは……」
あぁ、当たり前のように次元が違う。
もういいや。
早くシェルヴィ様を探そう。
そしてプールサイドを探すこと5分……。
「あっ、シェルヴィ様!」
「ん?」
日当たりのよいプールサイドに置かれた5つのサンベッドチェア。
その左端にシェルヴィ様の姿があった。
「シェルヴィ様、先程はすみませんでした!」
秘技、即土下座。
「み、見るでない!」
……え?
シェルヴィ様はそう言うと、スクール水着の胸元を覆いながら大きいプールに飛び込んだ。
「あれ……?
シェルヴィ様って泳げるんだっけ……」
「ゴボボ……ハー……ス……」
シェルヴィ様!
「デリート!」
俺はプールの水を一時的に消し、シェルヴィをプールサイドに寝かせた。
そして再び、デリートでプールの水を戻した。
「シェルヴィ様、大丈夫ですか!」
「お、お星様が3つ……」
「シェルヴィ様!」
う、嘘だ……。
シェルヴィ様……!
「嘘なのだ」
「へっ?」
何事も無かったかのように起き上がるシェルヴィ様。
「ハースが無視したお返しなのだ。
でも、これでチャラにしてあげるのだ」
「はい……。
ありがとう、ございます?」
よく分からないが、仲直り出来たらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます