「はじめまして、ですよね？」

「は、はい……！」

　あぁ、よかったぁ！

　やっぱり初対面だ。

　でも……。

「どうして、俺の隣なんですか？」

「えーっと、あの、いや、その、なんとなくです！」

「へ、へぇ……」

　少し変わった人だな。

　とても強そうには見えないが、人は見かけによらないと聞く。

　武者震いしてたくらいだし、いつ襲ってきてもおかしくないよな……ごくりっ。

「……やっぱ、嘘、かも……」

「えっ、今なにか言いました？」

「ナ、ナニモイッテナイデスヨ……」

　おいおい、突然のカタコトは反則だろ！

　あと、モジモジしてるの可愛すぎか！

　あぁもう、一生このままだったらいいのになぁ！

「おいっ！」

「あ痛っ……」

「シェルヴィちゃん、乱暴はだめだよぉ」

　俺のおでこに何かが当たり、床にポトッと落ちた。

「ん？

　これは消しゴム……？」

　拾い上げると、それはいちごの形をした消しゴムだった。

　そして、それが飛んできた方向には、頬をパンパンに膨らませたシェルヴィ様と焦った表情を浮かべるナタリアさんが立っている。

「シェ、シェルヴィ様……？

　どうされたのですか？」

「ふん、別になんでもないのだ！」

「え……。

　それはどういう意味ですか？」

「ハースはそうやって、一生ニヤニヤしてればいいのだ！

　ナタリア、中庭に行くのだ！」

「あっ、ちょっとシェルヴィちゃん！」

　シェルヴィ様はナタリアさんの右腕をガッシリ掴み、無理やり引っ張りながら教室を出ていった。

「シェ、シェルヴィ様……！」

　そういえば、教室に先生の姿がない。

　俺の知らないうちに朝のSTが終わっていたようだ。

「あぁ、俺はなんてことを……」

　これはシェルヴィ様を見ていなかった俺が完全に悪い。

「シェルヴィ様を怒らせてしまうなんて、俺は世話役失格だ」

　無意識に視線が下がっていく。

　しかし、自分の足元が視界に入ったその時、綺麗な人が突然こんなことを言った。

「あ、あのっ……！

　おふたりって、な、な、な、仲良しですよね……」

「え？」

　この人は何を言っているんだろう。

　心の底からそう思った。

　でも、どうしてこの人は俺とシェルヴィ様の関係を知っているんだ？

　だって、そうだろ。

　知ってる人なんて、魔王城にいる人くらいだ。

「じ、実は私、ハースさんに助けられたフェンリアルなんです！

　きゃー恥ずかしいぃぃ……！」

　ん？

　フェ、フェンリラル？

　俺が助けた？

　あぁ、そうか。

　なんで気づかなかったんだろう。

　これは人違いだ。

「おそらくですが、人違いだと思うんですけど……。

　って、ハースさん！？」

「そう、ですよね。

　この姿だと分からないですよね。

　なら……！」

　突然ボンッとアニメチックな音がしたかと思えば、俺の目の前に山で対峙したあの狼が現れた。

「お、お前はあの時の狼！

　でも確か、俺が消したはずじゃ……」

　ただ、狼に以前のような殺気はなく、先程と同じように前足と前足を擦り合わせ、モジモジしている。

「は、はい……。

　そうです、そうなんです！

　ハースさんが、私にかけられた魔女の呪いを消してくれたんです！」

　あっ、俺のデリートってそんなレベルなのね……。

　もっとなんかこう究極の必殺技みたいなものだと思ってたのに……。

「あはは……」

「いやぁ、でもびっくりしましたよ。

　300年も解けなかった魔女の呪いを消せるなんて……」

「にょっ！　ひま、なんて？

　(え！　今なんて？)」

「暇何で？

　ってなんですか？」

　おい、俺が魔女の呪いを消しただって？

　もう魔女絡みの問題は懲り懲りだが、これはすごい発見だ。

「まぁ、と、とにかくですね。

　私はあなたに助けられたわけだし、これからはお返ししていかないと、なんて……」

　うーん。

　彼女を犬だと思い込めば、ただのペットだ。

　でも、これだけ綺麗な人だとそうもいかないよなぁ……。

　あっ、そうだ！

「フェンリラルさん」

「あの、私一応、フェンリアルです」

「おっと、これは失礼。

　こほん。

　では、仕切り直して……。

　1つ頼まれてくれませんか？」

「は、はい……！

　もちろんです！

　何なりとお申し付けください！」

　こうして、俺はなぜか自分の命を狙ってきた狼、フェンリアルと知り合いになった。