第15話 教室

 エレベーターから降りると、そこにはフローリングのT字廊下があった。

 窓から差し込む日差し、ほのかに香る木の匂い、全てが学校という感じだ。


 でも強いて言うなら、もう少し低かったらなぁ……。

 右手にある窓から見える景色に圧倒されながら、俺は思った。


 そうそう。

 2人のクラスである2-1の教室だが、エレベーターから降りて、すぐ左の位置にあった。


 もうすでに教室の中は、多くの生徒で賑わっている。


 いやぁ、この正方形な教室といい、5行6列の机配置といい、横にかけてあるランドセルといい、懐かしいなぁ。


 ……って、シェルヴィ様もナタリアさんも手ぶらじゃん!


 もしかして荷物忘れてきた!?


 いや、そんなはずないな。

 だって、ナタリアさん真面目そうだし……あっ、もちろんシェルヴィ様もね。


「おはようなのだ!」


「おはようございます!」


 開いていた前の扉から元気に教室へ入る2人。


「シェルヴィ様おはようございます」


「ナタリアおはよう!」


 1人取り残された俺は、どうしていいのか分からなかったため、廊下で待機することにした。


 急に部外者の俺が教室に入って、パニックになられても困るからな。


 あっ、もちろん俺は不審者じゃないけどね!


 なぜか俺は、1人廊下で首を横に振っていた。


「おいハース、何をしているのだ……。

 まぁよい、早くハースも入ってくるのだ」


「はい」


 あれ?


 シェルヴィ様の顔がまた暗くなっている。

 今の間に何かあったのか。


 頭を悩める俺の元にナタリアさんが近づいて来た。


「後ろの方にハースさんが座れる椅子も準備されてますよ」


「後ろ……?」


 俺は教室後方に視線を移した。

 そんな、まさか……。


「って、まじかっ!」


 そこには、サッカースタジアムの観客席を彷彿とさせる座席が4列も設置されていた。

 しかも、最前列と2列目にはすでに先客がいる。


 誰の指示でこうなったのかは、知らないけど……。


「流石にこれはやりすぎっ!」


 あっ、まずい。

 つい大声を出してしまった……。


 これじゃ完全に不審者じゃないか。

 面倒なことになる前に、さっさとここを離れないと。


「ねぇ、あの人だーれ?」


 あっ、今までお世話になりました。


「えっ、どれどれ?」


「ほら、あの廊下にいる人」


「えっ、超イケメンじゃん!」


「何それ、私も見たい!」


「私も私も!」


 ん!?

 なんだなんだ!?

 思ってた反応と違う上に、想定外の盛り上がりっ!?


 そして次の瞬間には、教室にある2つの窓から大勢の女の子たちが顔を出していた。


「ま、まずいことになったな……」


 しかも、2-1の教室が突然騒がしくなったことで、他クラスの女の子も集まってきてしまった。


「へぇ、ここって女子校だったんだ……」


 俺は左右1回ずつ首を振り、状況を確認した。

 そして、出した結論がこれだ。


 現実逃避。


「おい、お前たち離れるのだ!」


「そうですよ!

 ハースさんに失礼です!」


 あぁ、シェルヴィ様とナタリアさんが女の子たちを窓から剥がそうとしてくれてる。

 でも、俺にはどうすることも出来な……。


「おいおい、これは何の騒ぎだ?

 ……って、あんた誰?」


 声のする方に顔を向けると、クリップボードを手に持つ先生らしき人と目があった。


 オレンジ色の綺麗な髪は後ろで雑に結ばれ、シワシワな赤ジャージが目を引く。

 見るからに、体育教師だ。


「あっ、初めましてこんにちは」


「あー、どうも」


 俺から見てもこの光景は実に異様だ。

 なら、先生の目にはおそらく、もっと異様に映っていることだろう。


 初めて見る謎の男が何かをやらかし、生徒たちに追い詰められている。

 もしこんなふうに見られていたら、俺は詰みだ。


 いや、すでに罪なのかもしれない。


 頼む。

 誰か助けてくれ。


 時間がいつもよりゆっくりと流れている。

 そんな感覚が俺を襲う。


「あっ、えーっと、保護者の方ですよね。

 申し訳ありません。

 どうぞ、後ろの席座っちゃってください」


 ……え?


「は、はい。

 それでは失礼します」


 あれ……?


「おいお前たち、朝のST始まるからさっさと席つけよー」


「はーい!」


 なんだ、俺の考えすぎか。

 まぁ、何はともあれ助かった。

 とりあえず、保護者席に座って落ち着こう。


 教室後方の扉の更に1つ奥の扉から俺は保護者席のエリアに入った。

 そして、悩むことなく1段だけ下り、最後列の右端に座った。

 理由はもちろん、1番近かったからだ。


「シェルヴィ様の勇姿、このハースがしっかり見届けますからね」


 ん?

 なんか俺、昨日とキャラ変わってない?

 まぁ、確かに心持ちは変わったけど……。


「あ、あの、隣いいですか?」


「はいどうぞ」


「あ、ありがとうございます。

 では、し、しつ、失礼します……」


 それで、さっきの続きから話すと……。

 って、ええええええええええええ!


 こ、この、突然隣に座ってきた綺麗な人は誰だ!?

 知り合いか!?

 俺の知り合いなのか!?


 いやいや、昨日からの記憶しかまともにない俺に、ふわふわ紫髪ロング、太めの白黒ボーダー、黒のタイトパンツがここまでよく似合うお姉さんの知り合いなんているはずないだろ!

 し、しかもでかい……。


 ふぅ、まずは情報収集からだよな。


「あの、1つ聞いてもいいですか?」


「は、は、は、はい……!」


 なっ……!

 背筋をピンと伸ばしている上に、手がグーで膝の上、だと……。

 目が合う気配もなければ、ぶるぶると震えている……!

 こ、これは間違いない。


 この人、できるっ!

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