第13話 魔王校
しばらく歩き、俺とシェルヴィ様は山道を抜けた。
「はぁ、一時はどうなることかと思いましたが、なんとか抜けられましたね」
「うむ」
20段ほど石の階段を下りると、そこにはごくごく普通な道路と歩道があった。
しかし、そこに車が走っている気配はなく、ただ道路があるだけのようだ。
「シェルヴィ様、目的地はどの辺りにあるんですか?」
「はぁ、はぁ。
あ、あっちなのだ……」
シェルヴィ様が指さす先には、学校のような建物があった。
しかし、あれは学校なのだろうか。
俺のよく知る学校は、この距離から見ると、もっともっと小さかった気がする。
まぁ、近づいてみないことには分からないか。
「はい、あそこですね。
急いで向かいましょう」
「なっ……!」
俺は疲れ果てているシェルヴィ様を右肩に担いだ。
「では、とばしますね!」
「うわぁぁぁああ!」
そして、ガードレールで区切られた歩道を全力で走った。
遅刻させてしまっては、元も子もないからだ。
しばらくすると、ギャーギャー騒いでいたシェルヴィ様も、諦めたのか大人しくなった。
「静かですね」
「……うむ……」
そして、シェルヴィ様が静かになると、この辺りの静けさも同時によく分かった。
家もなければ、人もいない。
道路以外に何か物を挙げろといわれたら、道路脇に生えている針葉樹くらいしかない。
「シェルヴィ様、この辺りは何も無いんですね」
「うむ……」
あれ?
テンションが低い……?
もしかして、俺は何かまずいことを聞いてしまったのか……。
「あっ、そろそろ着きますよ……!」
「わっ、本当なのだ!
ハースは足が速いのだ!」
「はい、お任せください!
まだまだとばしますよぉぉぉおお!」
「も、も、も、もういいのだぁぁああ!」
ふぅ、機嫌が戻ったみたいでよかった。
でも、少し気になるな。
俺は頭を悩ませながら、学校へ走った。
そして走ること5分……。
「着きましたよ」
「あ、ありがとうなのだ……」
無事、学校前に到着した。
それにしても、これはすごいな。
とにかく大きい校舎、それを囲う有刺鉄線のフェンス、そして何より、校門を守る門番が立っているのが印象的だ。
門番は背が高く、鉄防具で全身を覆い、右手には大きな槍を持っている。
豚のような顔立ちから察するに、この人も魔族のようだ。
「ここからはシェルヴィ様おひとりですか?」
「う、うむ」
「本当に1人で行けますか?」
シェルヴィ様は3秒ほど黙った後、こう言った。
「ま、まぁ、ハースがどうしてもついてきたいというなら、別について来てもいいのだ」
はぁ、シェルヴィ様。
それだとついて来いと言っているようなものです。
後、そのチラチラ見てくるのやめてください。
めちゃくちゃ可愛いので。
「ではこのハース、お供させていただきます」
「うむ、そうするとよいのだ!」
ほらね、明らかに表情がよくなった。
いくら魔王の娘とはいえ、中身はただの普通の子供なんだよな。
……って、あれ?
俺の肩にいたはずのシェルヴィ様が、いない……?
「ぶーちゃん、おはようなのだ!」
ん?
んん?
んんん!?
ぶ、ぶ、ぶ、ぶーちゃん!?
おいおい、下手したら殺され……。
「おやおや、これはこれはシェルヴィお嬢様。
おはようございます。
このぶた丸に挨拶してくれるなど、恐悦至極でございます」
なんだ、2人は知り合いだったのか。
でも、なぜだろう。
シェルヴィ様はどこか不満そうだ。
「うむ。では、門を開けてくれ」
「はっ! ただいまっ!」
ぶた丸改めぶーちゃんは、重そうな門を横へ動かし、軽々と開けた。
「ありがとうなのだ」
「いえいえ、これが私めの仕事ですから」
ふへぇ、真面目だなぁ。
「おいハース、早くこっちへ来るのだ!」
「はい、ただいま」
俺はシェルヴィ様に呼ばれるがまま、校庭に入った。
やっぱり、シェルヴィ様はまだ不満そうだ。
これは俺の予想だが、原因はおそらく、シェルヴィ様が魔王の娘という立場にあることで、相手が
まぁでも、社長を前にした社員がヘコヘコするのは至って普通だ。
うーん。
果たして、7歳のシェルヴィ様にそれが理解できるかどうか……。
これは実に難しい問題だ。
校門を抜けた俺は、ついに巨大な校舎と対面した。
校舎の屋上から下げられた垂れ幕には、『魔王校創立120年』と書かれている。
「わぁ、立派な校舎ですね」
魔王校ってことはパパさんの学校なのか。
「ふん、まぁまぁなのだ」
「あはは……」
流石はシェルヴィ様だ。
まぁ、とりあえず今は、異世界の学校とやらを楽しもう。
俺がシェルヴィ様の手を取ろうとしたその時。
「あっ、シェルヴィちゃん!」
「ん? おっ、ナタリアではないか!」
……って、言ったそばからお友達登場かよっ!
もしかして、もう俺は不要なんじゃ……。
シェルヴィ様の名前を呼んだ女の子は、短めに切り揃えられた黒髪がとてもよく似合う、パッチリ黒目の童顔。
美しい水色の布地に包まれた民族衣装のようなその服は、鮮やかな色彩と独特の模様で彩られ、文化や手工芸ならではの豊かな表現が垣間見える。
「そちらの方は?」
「ふっふっふ。
聞いて驚くのだナタリア!
こやつは我の従者、ハース・シュベルトなのだ!」
「じゅ、従者!?」
「そうなのだ!」
おっと、随分派手に紹介されちゃったな。
こういう時、従者はどう振る舞えばいいんだろう……。
まぁいい。
ひとまずここは真面目な感じで行くか。
「はじめまして。
ご紹介に預かりましたハースです。
以後、お見知り置きを」
ここで一礼。
「は、はじめまして……!
シェルヴィちゃんと同じクラスのナタリアです……!
こちらこそよろしくお願いします……!
あ、あの、この魔力量もしかして、魔王軍の方ですか……!」
まただ、また魔力量だ。
確かに、俺の魔力量は平均より多いのかもしれない。
ただ、魔王様はそんなこと一言も言わな……。
あれ?
もしかして、魔王様から見た俺の魔力量が普通だっただけなんじゃないか。
もしそうなら、魔王様が何も言わなかったのも頷ける。
いやいや、そんなものはただの予想でしかない。
ここは一旦落ち着いて……。
「いえいえ。
「あっ、そうですよね……。
私はてっきり、魔王軍幹部の方かと……」
「ゴホゴホ」
幹部、だと。
不意をつかれむせてしまったでは無いか。
「だ、大丈夫ですか?」
「はい、お気になさらず……」
ま、魔王軍幹部だと。
本当に嫌な響きだ。
そんなやつらと関わったら、もし関わってしまったら……絶対めんどくさい!
よし、絶対関わらないようにしよう!
「おふたりさん、もう話は済んだのだ?」
俺の視界にシェルヴィ様がひょこっと顔を覗かせる。
「あっ、うん!
シェルヴィちゃん待たせてごめんね!」
「別にいいのだ。
それより、早く教室に行くのだ!」
「うん!」
笑顔で顔を見合わせる2人。
本当に仲がいいんだなぁ……。
しかし、学校の教室か。
雰囲気ももちろん気になるが、普段シェルヴィ様がどのように授業を受けているのか少し気になる。
ここは特権の乱用と言われるかもしれないが、じっくりと堪能させてもらうとしよう。
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