第22話 中央制御室

 僕らは酒樽と空賊の後ろに身を隠した。二つの人影はまっすぐエレベータの方へやって来た。僕は、ソッと太った空賊の腰に下げてあった銃を引き抜いた。人影の一つはサンタの帽子をかぶり、顔も身体も太って、厚手の外套を着ていた。もう一つは小柄な子供のようだ。僕は銃把を握りしめた。二つの人影が近づいてくる。僕は小柄な方へ銃口を向けた。しかし、すぐにそれを下した。オリーブ色の髪に丸い顔、垂れた眼。セブだった。

「セブじゃないか」と酒樽から顔をつき出してパズルが言った。

「パズル」とセブが叫んだ。「無事だったのか」

「そっちこそ」

 僕らは空賊と樽の後ろから姿を現した。セブと一緒にいたのは小人だった。

「木に引っ掛かっていたところをこの小人に助けられたんだ」とセブは隣の小人を紹介した。

 小人は惚けた表情で瞬きをしながら、僕らへ向かって両手を差し出した。セブと同じぐらいの背丈で、小さい眼に、白い長い髭を生やし、ほっぺたと鼻が赤かった。僕とパズルは笑って、小人と握手をし、手をさすり合った。しかし、バルクは、うるさいッ、とそのつき出された両手を激しく払った。その途端、小人は両手を引っ込め、おどおどとした。僕らは、また笑った。しかし、一瞬、小人の目が吊り上がり、憎しみの色が浮かんだような気がした。

セブはこの小人に助け出された後、キノコの中をくり抜いた小屋に連れていかれた。そこにマゼルと戦っている王子と小人たちがいた。それで、今、僕らがどこにいるのかをモニターで調べてもらい、僕らが中央制御室へ向かおうとしているのを高感度マイクを通した会話を聴いて知った。セブらは、僕らの後を追うため、キノコの小屋の地下からこのロボットの整備工場を抜け、中央制御室へ向うところだった。そこで僕らに会ったのだ。

「中央制御室にはどうやって行くんだい」とパズルが小人に訊いた。

 小人は、こっち……、とトロンとした眼付きで、譫言のように言うと、エレベータ脇の扉を指さした。

「よし行こう」

 エレベータ脇の扉を開けると下り階段だった。一回踊場を折れて、さらに下ると『中央制御室』『関係者以外立入禁止』と表示された扉があった。そこを開けると中は真っ暗だった。けど、先頭のパズルが一歩室内へ踏み込むと、天井の明りが手前から奥へ向かって順々と灯っていった。制御盤のランプや、モニターが電気音をたてて、点き始める。僕らは、中へと入っていった。それまで冷たく死んでいた機械たちが生気を取り戻し、働き始めた。四囲の壁には園内の状況を示すランプやモニターが表示された。壁から少し離れたところに操作パネルの付いた机が一列に並べられている。そして部屋の中央には、透明な半円ドームの載った大きな台が据えられていた。あちこち見回しながら僕らはそれぞれ奥へ向かって行った。中央の半円ドームの中には、空に浮かぶ魔法ランドが立体ホログラムで映し出されていた。魔法ランドの上空にはプワープ城も浮かんでいた。よく見ると、魔法ランドの底部にレーザー光線のようなものが地上から真っ直ぐに幾条も放射されていた。つまり、魔法ランドは地上から放射された光線の束の上に乗っかっているのだ。プワープ城も、同じように魔法ランドの地表から放射された光線の束の上に乗っかっていた。

「磁力線スコープだ」

 半円ドームに見入っていた僕とセブ、小人にバルクが言った。

「おい、触るなっ」と半円ドームに触れようとしたセブにバルクが怒鳴った。「磁力線が狂ったら、魔法ランドが地上に落下しちまうじゃないか」

 ふと、僕は、隣の小人の耳がピクリと動いたような気がした。


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