第21話  ロボットの整備工場

「セブを信じるしかないだろ」

 僕はうなずくしかなかった。

 しばらく進むとエレベータが大小二基並んだ壁に突き当たった。通路の隅にはオーニソプターの積まれた台車が何台か止めてある。

「ここは、火山の中腹だ。おそらく地下まで降りないと出口はないだろう。従業員が出入りするところを客に見せるわけにはいかないからな」と、バルクはエレベータのボタンを押した。

 大きい方のエレベータの扉が開いた。僕らは乗り込んだ。エレベータの間口は広く、奥行きもある。天井もほぼ通路の壁と同じ高さがあった。

「大きなエレベータだ……」とパズルが呟いた。

 エレベータは地下一階まで下りていった。扉が開くと、突然、目の前の薄暗闇の中に肉食恐竜が現れた。僕とパズルは悲鳴を上げて、後ろへ飛び退いた。後ろも横も壁だ。恐竜は巨躯を屈め、僕らを睨んでいる。そのままジッと構えて、微動だにしない。その前にバルクが平然と立っていた。

 バルクは振り返り「ふん、臆病なやつらだな」と言い捨ると、電源の切られたこの恐竜型ロボットの脇をすり抜けて、エレベーターを下りていった。

 僕らもエレベータを下りた。地下一階はだだっ広い倉庫みたいな場所だった。モンスター・ロボットが何体も整備の途中で放っておかれたままになっていた。頭部と胴体を切り離され内部にコードを突っ込まれているものや、ドッグに鎖で吊るされているものなどがあった。小人のロボットも何体もあった。みんな後頭部を開かれ、パソコンとコードで繋がれていた。鳥や蝶、トンボ型のオーニソプターが何機も雑然と駐機されていた。床にはアセチレンガス・ボンベやケーブル、机や工具、パソコンなどが散乱していた。

「ジャングルの下はこうなってたんだ」と僕は嘆息した。

「ロボットの整備工場みたいだ」とパズルは言った。

「飛べるオーニソプターを探して、やつらが追ってこない方から逃げよう」とバルクは傍らに立っていた小人の頭を撫でながら言った。

「その前に中央制御室へ行って魔法使いマゼルの暴走を止めなきゃ。広場の方から逃げたって、あそこにもマゼルに操られた翼竜がいる」

「なんてことだッ。ロスト・ゾーン以外にもモンスターがいるのかよ」そう言ってバルクは、傍らの小人の頭を殴った。しかし、小人の頭の方が固かったみたいだ。

「おいっ、何触ってんだ」と、バルクが、近くに立っていた空賊のキャスト・ロボットに触わろうとしていた僕に手をさすりながら真っ赤な顔をして怒鳴った。「うっかり動き出しちまったらどうすんだよ」

 空賊は丸つばの帽子を被り、太っていて、どんぐり眼に口の周りにもじゃもじゃの髭を生やしていた。手には酒瓶を持ち、茶色のチョッキにブーツを履いていた。腰にはラッパみたいな銃を下げていた。もう一人の空賊は、痩せたのっぽで、腰に剣を吊り、細面のしゃくれた顎の先にヤギ髭を生やし、落ちくぼんだ眼に鷲鼻をしていた。二人とも鼻が赤かった。その横に酒樽が並び、ヤギが一頭いた。

「何かやってくる」そう言ってパズルが工場の奥の方を指さした。

 見ると、暗がりの中、二つの人影がこちらへ向かって歩いてくる。

「やばい、隠れろ」

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