第3話、深そうで浅い物語

「おい……どういうことだよ、これ……」


俺は震える指でスマホの地図を開いた。画面には、赤い現在地の点と、目の前に広がる圏外の表示。


そう、俺は今、断崖絶壁の端に立っている。


「いや、だからおかしいんだって! 俺、コンビニに行こうとしただけなのに!!」


話は30分前に遡る。家の近くにある新しくできたコンビニに行こうとした俺は、何を思ったのか「いつもと違う道で行ってみるか」と考えた。これがすべての間違いだった。


少し歩くと見慣れない風景が広がり、「まぁ、大丈夫だろ」と楽観視していたが、気づけば山道に入っていた。そしてさらに進むうちに、なぜか視界が開け、気づけば目の前には――


「……絶壁、じゃん?」


確かに高台のほうに新しいコンビニができたとは聞いていた。でもこれはおかしい。コンビニの駐車場からの景色が「地の果て」みたいになってるはずがない。


「どこで道を間違えた……?」


いや、全部間違えてる。そもそも「いつもと違う道を行くか」とか思った時点で終わってる。


後ろを振り返ると、来た道すらどこだったのか分からない。スマホも圏外。


「終わった……」


俺は地面にへたり込んだ。買いに行こうとしたのは、ただの焼きそばパンだった。方向音痴が焼きそばパンごときで遭難するの、世にも浅すぎる話じゃないか?


「誰か助けてくれ……!」


そのとき、どこからともなく声がした。


「お兄さん、何してるの?」


振り向くと、登山装備のじいさんが立っていた。


「え、いや……コンビニ行こうとしたら、なんかここに……」


「はっはっは、それは大変だな。登山道と間違えたのかい?」


「これ登山道!?」


じいさんは軽々と山道を下りながら言った。


「とりあえず、ついておいで。コンビニ、こっちにあるよ」


「マジかよ……」


こうして俺は、なぜかプロの登山ガイドみたいなじいさんに導かれ、無事コンビニへとたどり着いた。


――方向音痴がコンビニへ行くのは、時に命がけである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る