第4話、深そうで浅い物語

「なあ、犬ってさ、どれくらい生きるんだ?」


唐突にそう聞いてきたのは、幼馴染の翔太だった。俺たちは公園のベンチに座り、コンビニで買ったアイスを食っていた。


「種類にもよるけど、チワワとかは15年くらいじゃね?」


適当に答えると、翔太は「そっかぁ」と呟いてアイスをかじった。


「お前、犬飼ってたっけ?」


「いや、飼ってないけどさ、最近チワワの動画ばっか見てて……なんか、かわいくてさ……」


「それで寿命が気になったのか?」


「そう」


「……お前、チワワ飼う気か?」


「いや、俺んちペット禁止だから無理」


「じゃあなんでそんな気にしてんの?」


「……チワワって、めちゃくちゃ小さいのに、一生懸命生きてるじゃん?」


「まあな」


「それがすごいなーって思って……なんか、俺も頑張ろうかなって……」


俺はアイスを食い終えて棒を眺めながら、ふと思った。


「お前、チワワに人生教わってる?」


「……かもしれん」


翔太は照れ臭そうに笑った。


「チワワの命ってさ、短いけど、一生懸命生きてるじゃん?」


「お前さっきからそればっか言ってるな」


「いや、でもそう思うと、なんか俺ももうちょいちゃんと生きようかなって……」


「じゃあ、まずはバイト探せよ」


「う……」


翔太は顔をそらした。


チワワの命は短い。でも、チワワは悩まない。俺たちはチワワよりずっと長く生きるけど、そのぶん余計なことを考えてしまう。


翔太がチワワに影響されて頑張るのかどうかは知らない。でもまあ、チワワの動画を見るくらいなら悪くないだろう。


「とりあえず、今日も頑張ってアイス食うか」


「いや、それは頑張らなくていいだろ」


俺たちはどうでもいいことを話しながら、もう一本アイスを買いに行った。

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深く、浅い物語 coconut @kakkosann3150

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