幼馴染と、元カレと

優月紬

第1話

 寄りを戻したいわけじゃない。それが叶わないことも分かっている。ただ、忘れられないだけだ。

 だってあんなに、愛されてしまったら。他の人なんて、考えられない。

 だから私は、一人で生きていく。


「楓?」

「……春太?」


 私は久しぶりに会った幼馴染の春太に、ただただ不思議そうな目を向けてしまった。

 どうして春太がここにいるんだろう。そう思って。


「楓も墓参り?」

「うん、そう。今日誕生日でしょ、夏輝の」


 夏輝。私のもう一人の幼馴染で、忘れられない元彼の名前。彼の名前を口に出した後、思わず顔を伏せる。

 やっぱり、私はおかしいのかもしれない。彼の名前を呼ぶだけで、こんなにも彼の体温を思い出してしまう。楓と呼ぶ優しい声も、彼の微笑みも、まぶたの裏から消えてくれない。


「ふーん。まだ来てるんだ」

「いいでしょ、別に」


 春太はいつも、夏輝のお墓参りになんてこない。それに、今でも彼を忘れられない私を、小馬鹿にしている部分すらある。


「もう彼氏欲しいとか思わねーの?」

「夏輝以上の人なんて、いないよ」


 私はお墓に手を合わせながら、そう言った。


「……やっぱ、ムカつくな」


 春太は何かを呟いていたけど、私には聞こえなかった。


「春太は?どうして今日ここにいるの。いつも来ないのに」

「楓が来るかなと思ったからだよ」

「何それ」


 春太は嫌そうな顔をしながらもお墓に手を合わせ、すぐに立ち上がった。


「楓、この後暇なら飯でも行かない?」

「いいよ」


 私も立ち上がって、夏輝のお墓を見る。夏輝は交通事故で呆気なくこの世から消えてしまったけれど、私の心の中にはずっと、ずっと生き続けている。


「春太、私さ、この先もずっと夏輝のこと忘れたくないの。私は毎年、夏輝の誕生日と命日には必ずここに来るよ。だから、春太も、たまには来てよ、お墓参りに」

「……気が向いたらな」


 春太だって、夏輝と仲が良かったはずだ。私達はずっと、幼馴染だったのだから。

 春太が来たら、きっと夏輝も喜ぶ。私はそう思いながら、夏輝のお墓にまた視線を向けて微笑んだ。


「また来るね、夏輝」

「行くぞ、楓」


 この時の私は、数時間後には春太に告白されることを、まだ知らない。

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幼馴染と、元カレと 優月紬 @yuzuki_tumugi

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