#2

外縁の1階は水没している…というか、ほぼ水路だった。

窓が無く、壁はレンガで暗闇。そして音が響く。


小学生だった頃、子供はトイレに行く時、神に一緒に来てもらっていた。

あまりの眠さにトイレのドアの前で神は寝てしまい、そのまま子供は朝までトイレに閉じ込められた事もある。


今は違う。

子供は1人でトイレへ行ける。むしろ、神についてこないで欲しいとまで言うほど成長していた。



もう子供ではない。高校生なんだ、大人なんだと。

アボカド料理の前で、改めて子供は神に、仕事を手伝いたいとハッキリ言った。


「…じゃあ、本当の事を話そうかと思う」


「え」


神の答えは予想外だった。そして彼女は食器をテーブルに置いて、口を開く。


「私の仕事は人間にはできないんだよ。君はヒトで私はカミ。見た目は似ていてもでも種族的には全然違うからね…」


「そうでしたか…なら、もう子供扱いは、その、恥ずかしいので、やめてほしいっです」


子供はさらに言った。


「え、そうなの?」


「はい。僕はもう高校生なんですよ!」


「そしたら、もう君は私に甘える事はできないんじゃない?」


思考が停止した。なぜ?

なぜ大人になったら、神に甘えられなくなるのだろうか?


「どういう事ですか?」


「大人って、甘えられる相手がいないじゃん。君は私に甘えられるけど、君の親は誰に甘えるの?」


「えぇ、そんな…」


神は立ち上がると、子供の頭を撫でる。そして耳元で囁いた。


「私の前でくらい、子供のままでいてよ。君は学校ではちゃんと大人なんだし。私は神様だから知ってるんだぞ」


「でもそれじゃあ…」


「私は仕事に慣れてるし、しかも神様だから、全然手伝って欲しいだなんて思ってないよ?」


甘えられる相手がいる間は、その人の前では子供のままでいよう。

神への憧れは消えないが、それでもまだ大人になるのは止そう。


「師匠、夜、耳かきして欲しいです」


「ん、良いよ。なんなら一緒に寝る?」


「それは大丈夫です」

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外縁 まめでんきゅう–ねこ @mamedenkyu-neko

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