外縁

まめでんきゅう–ねこ

#1

海の近くにある街の山の上に、外縁がいえんと呼ばれる、まぁまぁ大きな屋敷があった。

いつからあったのかは不明だが、その屋敷には現人神あらひとがみが住んでおり、人々を愛した。


人々も彼女を愛した。



その神は1人の子供の面倒を見ていた。

どうやらその子の親は仕事が忙しすぎて、週に一度しか家に帰れないらしい。


子供はすくすく成長し、全力で勉強し、辛くなったら神に甘え…と珍しい生き方だが、本当に真っ当に生きていた。






外縁は、風が吹き抜けるような開放的な構造になっており、またとても入り組んでいた。

木造建築だが3階もある。窓からは街と海を一望でき、最上階にある広場では星空を眺める事ができる。


目の疲れを癒すなら、中央にある吹き抜けで座る。

子供の生活は充実しており、神もまた彼の事をよく思っていた。




ある日、子供は神を呼んで言い出した。


「師匠、僕、師匠の仕事のお手伝いをしたいです」


彼は神の事を師匠と呼んでいる。神様と呼ぶと余所余所しい、だが名前で呼んだら馴れ馴れしい。

だから師匠と呼んでいた。


「そうか…」


神は髪をグルグルと巻きながら、天井を見上げて話す。


「神様って、どんな仕事してるか、君は知ってるの?」


「…いいえ」


「人間なら、ちゃんと人間の事をすべきだよ。私の仕事は私がやるから、心配しなくて良いよ。

それに君はまだ子供。私の仕事を手伝うのは無理じゃないかな」


相手にされなかった。子供はもう高校生で、見た目も精神的にも成長している。

背は低いが、声もまぁまぁ低い…いや、高い声と低い声の中間あたりだろうか。まだ高音は出る。


一方で神は、見た目は何も変わっていない。

同い年くらいの見た目で、でも彼女の方が年も経験もずっと上。


この神と1番近くで関わってきたのは自分だと、子供は自覚している。そして1番迷惑をかけてきたのも自分だと自覚している。

だからこそ神の仕事を手伝えるようになり、彼女に休憩してもらいたかった。


それともう一つ、理由がある。子供は神に憧れていた。

崇められたいとか、そんな感情ではなく、ただただ彼女のその姿に憧れていた。



テストで取った点数が低かったり、友人との付き合いが上手くいかなかったりすると、子供はいつも神の膝枕に頭を乗せて慰めてもらっていた。


自分がまだ人間として未熟なのに、神の仕事を手伝えるのか。足手纏いにならないか。



あるテストで子供はついに満点を取った。さらに英語の検定にも合格した。

それを聞いて神は喜んだ。


「おめでとう!今夜は君の好きなものでも食べようか!何が食べたい?」


まるで子供扱いしているかのように、神は子供に抱きついて頭を撫でる。

自分が幼稚園児みたいだと、抱かれながら子供は思った。


「あの、じゃあ今日はアボカドの料理が食べたいです」


「へぇ珍しい。アボカド好きなんだ」


別に子供はアボカドが好きではない。

でもちょっと大人になりたいので、普段はハンバーグと言っているところをアボカドと答えた。

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