私のあこがれた人のお話
舟渡あさひ
独り言です
その人は、道行く人が思わず振り返るような――――
――――とかではなかったですけど。
ファンや追っかけがいる学年中の人気者――――
――――とかでもなかったと思うんですけれど。
よく人を見ている人でした。
自分から人に歩み寄れる人でした。
具体的に何がどう、というのも詳しく思い出せないのに。接点だって大してなかったのに。
思い返せばいつも、あの人から声をかけてもらっていました。
あの人のほうから動いてもらっていました。
本当に些細なことだったのに、お礼まで用意してくれたこともありました。
実をいうと、あの時あの人から声をかけてもらって一緒に撮った写真は、今でも大切にとっておいていたりします。
そんな、当たり前のことのようにしてくれていたそれらが実は、毎回毎回、勇気をだしてしてくれていたことだということには。
もう会わなくなってから、最後のやりとりで知りました。
それはどんなに素敵なことでしょうか。
絶体絶命のピンチを救ってくれたとか、挫けた心を立ち直らせてくれただとか。
そういう劇的なことは何一つない些細な気配りが、私にはどれだけ眩しく見えたことでしょうか。
私も人にそうありたいと思いながら、私は怖くて、人から距離をとることをやめられずにいたのに。
そんな人間いくらでも諦められるのに。放っておけるのに。
何度でも声をかけにいけるのは、どれほど素晴らしいことでしょうか。
私は一度も、なにも返せなかったのに。
それでも変わらずいられることは、当たり前のことでしょうか。
理想でした。まさに。
私が人にこうありたいと思う姿そのものでした。
嬉しかった。
情けなかった。
尊敬していた。
申し訳なかった。
あこがれていた。
羨ましくもあった。
私もあの人に、そうありたかった。
最後までそうなれなかった。
ありがとうも、ごめんなさいも、言えなかったことがたくさん胸の奥に積もったまま。
もうきっと会うことはない。
今、どこで何をしているのかも知らない。
今でも私は、あんな風に人と接することは出来ていないから。
会いたいとも思わないけれど。いまだに私は、合わせる顔の一つも持ち合わせないけれど。
今でもずっと。
きっと、これからもずっと。
あの人は、私のあこがれ。
私のあこがれた人のお話 舟渡あさひ @funado_sunshine
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