第6話 烏の魔獣は誰かのあこがれ、を知る。(完)

「コク、浮けるの? すごいわ!」 

「立派だよ、よく頑張った」


 コクが家に帰り着いたのは、翌朝の早朝、日が昇るよりも前の頃だった。

 家族には、まず、心配をかけたことを詫びた。

 そして、無事でよかったと安堵されたあとに浮遊をしてみせたところ、両親は感激し、泣きながら、笑い出していたのだ。


「コク兄ちゃん、もう、走ったりのぼったり、しないの?」

 小さな妹だけは、不安げであった。

 いずれは兄と飛べるのだという喜び以上に、兄の走りやのぼりのことを気にしてくれるのかと、コクは思う。


「いや、大丈夫だよ、走れるよ」

 すると、妹は笑顔になった。

「よかった、兄ちゃんが走ったりのぼったりするの、かっこいいもん! 私、兄ちゃんみたいに強くなりたいんだ!」


 コクは、驚いた。


 飛べない自分に、飛べる小さな妹は。


 ……あこがれてくれていたのか、と。


 そこで、コクは、家族の中で最初に、妹に向けて、大切なあの魔果を見せることにした。


「ごらん。トリ様の降臨の噂がある遠くの丘で、見たこともない、珍しい魔果を見つけたんだ。きっと、いろんな効果があるはずだから、皆で食べよう。そして、種を、うちのすぐそばに植えよう。もしも、たくさんの種が取れたら、丘に行って、そこにも植えよう。兄ちゃんが、走り方を教えるからね。だから、兄ちゃんに、飛び方を教えてくれないか?」

「すごいね、兄ちゃんの羽みたいにきれいな黒だ、きらきら! 食べるのも、種、植えるのも楽しみ! 走り方、教えてね! 私も飛び方、教える!」

 はしゃいだ妹が、洞の家の中を小さく飛び始めた。


「コク……」 

「立派になって……」

「すげえ。お前の方が早くひとり立ちしそうだな」

 笑い始めていた両親は、また、泣き出した。

 兄は、嬉しそうな、それでいて少し悔しそうな、でもやっぱり嬉しそうな。そんな表情だった。


 ああ、そうだ。

 飛べない僕も、飛べる僕も。

 家族みんなには、コクなんだ。


『かっこいいもかわいらしいも』

 ヒツジ様のお言葉が、コクの心に、再度、響いた。


『そうですよ』

 トリ様のお声も、聞こえたような気がする。


 妹と、家族と。

 種から、丁寧に育てたなら。

 きっと、魔果は、実るだろう。


 嬉しいのに泣きたくなり、コクは、少しだけ目に力を入れた。

 そして、家族にこう伝えた。


「ごめん、ちょっとだけ、うちを出るね」


 ゆらゆらと、揺れるように浮きながら、家を出た。

 両親は、また、泣いていた。


 ゆらゆらと、コクは行く。

 でも、けっしてふらふらと、ではない浮かび方で。


 日の出前の早朝の空は、青く、美しい。


 そして、その青の中に、あの早い魔法の箒の上にある、お二人のモフモフな姿を。


 見付けられたような気がした。


 お二人は、きっと、またどこかで。


 白い魔熊様と一緒に、誰かを助けていらっしゃるのだ。


 コクは。そう信じていた。


 トリ様、ヒツジ様……クマ様。


 ありがとうございます。

 ありがとうございます。

 ありがとうございます!


 三度。コクは、鳴いた。


 そして、力強いコクの鳴き声は。

 青く、美しい空の奥の奥にまで、届くかのように。


 深く、響いたのであった。 (完)







※お読み頂きまして誠にありがとうございます。

トリ様とヒツジ様とクマ様の活躍します長編などは下記のコレクションにまとめております。(本作のタイトルにも、トリ様の本名がございます)


あらすじからご興味を頂けますお話がございましたら、そちらもどうぞよろしくお願い申し上げます。


https://kakuyomu.jp/users/mahako/collections/16818093079817693886



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【KAC20252】青き魔鳥と烏の魔獣~魔鳥ピイピイの日々~ 豆ははこ @mahako

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