第3話 トリ様は美しく空を舞い、ヒツジ様とともに助言を与える。
『飛べない魔獣の烏……なるほど。わたしの飛ぶ様子を見たら、飛翔のきっかけか何かを得られるかと考えたのですね。それにしてもあなたの住まいは遠いのに、大したものです。この十という数の日、毎日、懸命にこの丘と住まいとを往復するあなたの魔力の移動があることを感じておりましたよ。いいでしょう。今から飛びますから、わたしの姿をご覧なさい』
『トリ様のことは、人族の間でトリの降臨、と噂されていましたからねえ。この丘の精霊さんは、騒がしいのはお好みではなかったから、人族が押し寄せないように、トリ様とヒツジは、隠匿の魔法を掛けていたのですねえ。最初の数日は騒がしかったですねえが、十日間毎日ちゃんと、は、烏くんだけでしたねえ。だから、今日でこの丘とはさようならなので、トリ様が、姿を見せてお話してあげましょう、と言ったのですねえ。頑張って走ってきて、よかったですねえ。がんばりが偉かったのですねえ』
「ありがとうございます!」
トリ様とヒツジ様は、静寂を好まれる精霊様のためにと、魔法でお姿を隠していらしたのに、トリ様をひと目見たいと毎日ここに通うコクのためにとそのお姿を示してくださったのだ。
ありがたさに、コクの頭はまた下がりそうになるが、それを、ぐっとこらえる。
『よっこらモフモフですねえ』
軽々と、地上におりたヒツジ様。
すると、トリ様は美しく空を舞い始めた。
トリ様の大きな体が、空を舞う。
そのご様子は、青のお姿が、空に溶けるようだ。
コクは、そう思った。
『トリ様、楽しそうですよねえ?』
ヒツジ様は、にこにこモフモフとされていた。
「はい、あんなに高いところを飛んでおられるのに、楽しそうでいらっしゃいます」
『飛ぶことが、大好きだからですねえ。あと、飛びながら、素敵にお歌をうたいますのですねえ』
「歌を」
確かに、トリ様は嘴を動かしているようであった。
『この丘のまわりの魔果は、魔力がたくさん、それに、よいお味でしたですねえ? トリ様が、たまにですねえが、この丘の植物の精霊さんにお歌をうたってあげているので、育ちがよいのですねえ』
「僕、毎日魔果を採取してしまいました。大丈夫でしょうか……」
コクは、どうしよう、と思いながらもトリ様からは目を離さない。
すると、ヒツジ様は、穏やかに仰った。
『安心するですねえ。精霊さんが、烏くんは、たくさん取り過ぎないように気を付けていて偉いね、と褒めてましたねえ。烏くんはよい子ですねえ。トリ様を見習えば、飛べますねえ、ほら、ですねえ。烏くんが、いつも、力を入れているのはどこに、ですかねえ。力を……入れすぎなければ、どうですねえ?』
力を……入れすぎなければ。
コクが力を入れているのは、羽にだ。
だが、トリ様はどうだろう。
軽やかに、空を舞っている。
トリ様が、力を入れておられるのは。
『そう、わたしは歌う声に魔力を込めています。飛ぶことは、しぜんなことですからね。まずは、飛ぶのではなく、浮いてみてはどうでしょう?』
真剣に考えていたコクへと、届いた声。
このお声は。
トリ様だ。
浮く……浮く?
浮く、というのは。
こうだろうか、と。
コクは、いつもよりも、軽く、羽を動かす。
すると。
ふわり。
コクの体は、ゆっくりと、だが、確かに。
空中に、浮いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます