吉元 麻美

 授業中、吉本 麻美はシャーペンを持つ自分の手が目に入ることが嫌だった。ふっくらとした手に扁平で短い爪が目に入るとうんざりしてしまう。


 休みの日に友達と一緒に爪を塗ってみてもキラキラした飾りを貼ってみても、縦よりも横幅のほうが長いこの爪ではちっとも飾る甲斐がない。


 同居のお祖母ちゃんは、

「麻美の手は働きもんの手やしな。こういう爪の持ち主は心が優しいゆうぞ。気にすることないわ」

と言ってくれるが、「働きもん」とか「心が優しい」とか今は関係ないと思っていた。


 麻美が羨ましく思う手の持ち主はクラスメイトの矢本 楓だった。

 

 矢本 凜子は可愛いというよりしっかり者の委員長タイプ。ほとんど喋ったことはないが、麻美の印象に残ったのはその手だった。

 

 全体にほっそりとして長い指。指先の爪は指と同じくほっそりとして長い。本人はまだ興味はなさそうだが、大人になってネイルを塗ったらさぞかし映えるだろうなと麻美は羨ましく思ったいたのだ。


 「いいよなぁ、あこがれるよなぁ。

矢本さんみたいな爪が欲しかったなぁ」


 今日も自分の爪をチラリと見て、麻美は呟くのだった。

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