あこがれ　【KAC20252】

毎日、憧れのあの人に手紙を出す。

季節の移ろいや日常の些細な事をしたためて。

誰もあの人のことを知らない頃から、ずっと憧れていた。

都会へ出てアイドルになってどんどん輝きを増して。

私だけの憧れがみんなの憧れになってもその想いは変わらなかったのに。

あの人がニュースを賑わす。

薬物使用と人身事故があの人の評判を地に堕とし、手のひらを返したように叩き始めるオーディエンス。

ごめんね。

こんなことになるなんて。

それもこれもあなたのせい。

あんな子と結婚するなんて……独立するなんて……ありえない。

だから、ちょっぴりお灸をすえたの。

子供の頃からずっと一緒。

一緒に都会へきて、あなたを売り出すために奔走したのも私。

売れてからもマネージャーとして頑張っていたのに。

そんな私の反対を押し切って結婚して、私から離れて独立するなんて。

だから、人を使ってお薬を飲ませたの。

あなたにお薬を渡した人は、山奥で永遠の眠りについているから、私のしたことが発覚する恐れはないのよ。

後は、匿名でメディアにリークするだけだったのにね。

まさか、人身事故のおまけが付いてくるなんてね。

お陰で堕ちたアイドルの復活計画は台無しになってしまったけれど。

塀の中にいるあなたは、今、どんな思いで私の手紙を読んでいるのだろう。

大丈夫。

刑期（懺悔）を終えて出てきたあなたへのプレゼントは考えてあるの。

『続堕ちたアイドル復活計画』

私がしでかしたことの証拠は手元に残してあるのよ。

人身事故のおまけが付いてこなければ世に出るはずもなかったものだけれど。

後は、絶妙のタイミングでカミングアウトするだけ。

ニュースの見出しは『元マネージャーの歪んだ愛』ってところかしら。

あなたは、きっと、悲劇のアイドルとして復活できるはず。

別に妻の座が欲しかった訳ではないけれど。

そこは盛大に盛り上げて私をとことん堕とさないとね。

闇が深ければ深いほど輝きが増すものでしょ。

私を許さないでね。

私をすっぱり切り捨ててね。

私も、私を切り捨てたあなたを許さないから。

それでも、ずっと、これからも、あの人は私の憧れの人。

もうすぐ、あの人が刑期（懺悔）を終えて出てくる。

私は、準備を整えて笑顔であの人を迎えに行く。

ー完ー