人間と魚。同じ生き物でも住む場所も違えば呼吸の方法も異なることは言うまでもありません。
しかし、その常識的な認識を文章の力で非日常の世界へと引き摺り込む怖さがあるとしたらどうでしょうか?
特筆するなら人間味の滲む魚の描写です。
池から持ち上げて腕に抱く魚はビチビチと跳ね回るだけでなく、瞬きをしない凝視でじとっと感情を放つ凄みに身がすくむ印象を受けます。
また魚の口の中に突っ込んだ指が外れないシーンにはある種の焦燥感を覚え、そこへ舐め回される嫌悪感が加わると感覚を放棄したくなるほどの体感が身体中を駆け巡るようです。
リアルな描写に五月の陽気な中でも寒気を感じる。
日常を離れ、常識を逸脱し、眼前の生物に対し筆力の深さで翻弄される掌編だと思います。