第44話「謎の助っ人、空乎登場!」

 その時だった。

「な……!?」

 突然、どこからか衝撃波のようなものが飛んできて、華怜を拘束していた男たち、俺と母さんに向かってきた男たちを弾き飛ばす。

 そして……。


「な~んや、ホンマにまだ関東におったんかいな~」

 気の抜けたような、それでいて油断ならないこの声……。

 Ouroborosウロボロスの連中、華怜に続いて俺がそちらに視線を向けるとそこには……。

「お、お前は……」

「おおきに~。元気しとったかぁ、雄飛~」

 名前は知らない。だけどあの顔と声はしっかり覚えている。

 俺が麗衣さんと出会ったあの日。その日、麗衣さんと会う前に、俺を追いかけて来た男だ。

 ……でも、コイツは。

「お前はOuroboros……じゃないのか?」

 俺の問いに、男は頬をポリポリと掻いてから答えた。

「あ~、やっぱ勘違いされとったんやなぁ。……ちゃうで、俺はOuroborosやないわ」


「貴様、誰だ?」

 父さんは怪訝そうに男にそう問いかける。男は父さんに視線を向けることなく、そっぽを向いている。

「恐らくは、"不死鳥の子"なる組織の連中では? ……あぁ、痛たたた……」

 男の代わりに答えたのは、俺が投げ飛ばした名女川なめかわと衝突してダメージを負った合原だ。

「ああ、間違いねぇ。成長してやがるが、俺ぁこいつがガキの頃に会ったことあるからなぁ」

 白始友はくしゆうはサングラスをクイッと持ち上げながら、男の方を見ている。

「ま、そらバレるわな」

 男は気怠そうにそう答えると、華怜の方に視線を向けた。

「……おう、そっちのちっこいのぉ! 大変やなぁ! 生まれ変わっても厄介な連中に目ぇつけられとるやないか」


「え……あ……」

 男に突然声をかけられて、戸惑う華怜。そんな華怜に男はさらに言葉を重ねる。

「ま、この場は絶対に逃がしたる。今回は俺が助けたるわ……」

 その言葉を受け、何かに気付いたように華怜は大きく目を見開く。

「あ……ま、さか……? 」

 男は華怜が何か言いかけるのを遮って、白始友に視線を向ける。

「と、いうわけでコイツは俺が連れて帰るわ! おおきに!!」

 男がそう言ってニヤリと笑う。

「おいおい、逃がすと思う……というか、逃げられると思っているのかよ? この人数相手によ? しかも動けねぇ門宮華怜と種主を庇いながらかぁ?」

 白始友が呆れたような口調で言う。だが男は余裕の態度を崩さない。

 ジッとOuroborosの連中をニヤリと笑いながら見ているだけだ。


「フザケナイデヨ……。雄飛クント、モットモット遊ビタインダカラ……。逃ガサナイカラネ?」

 意識を取り戻したのか、名女川が俺を見て舌なめずりをする。

 名女川と合原まで戦線に戻るとなると、ただでさえ人数で有利なOuroborosが更に有利だ。

「ハハハハッ! なぁ、これでもまだ逃げられるってのか?」

 父さんが笑いを堪えられない、と言ったように男に向かって言う。

 だが、男はそれを聞くと笑みを浮かべたまま言う。

「アホ抜かせ。逃げるつもりなんてないわ。……ただ、お前らにはこっからご退場願うわ」

 男は口元に笑みを浮かべながらも、目をクワッと見開き、Ouroborosの奴らを見据える。


「そうかよ……。まぁいい、やれるもんならやってみな」

 白始友はそう言うと同時に部下たちに指示を出す。名女川や合原も再び戦闘態勢に移行する。

 だが男は顔色一つ変えずに、ただ一言だけ呟いた。

「ま、今回はこのくらいでええやろ」

 そして、人差し指で円を描くように動かし、その後に人差し指を弾くような動作をした。

 特に何も起こらない。


「ハ、何も起きな——!?」

 男の動きを父さんが嘲笑おうとした瞬間、Ouroborosのメンバーの体は見ない壁に弾き飛ばされるように吹き飛んでいった。

「ぐはっ!」

「な、なんだ!?」

「うおっ!」

 Ouroborosのメンバーたちは次々に弾き飛ばされていく。


「くっ、何だってんだこりゃあ!?」

「アァ! 雄飛クン、舞歌チャン! モットモットモットモット遊ビタイノニィイッ!!」

 それは白始友や名女川たちも、父さんも例外では無かった。

 前に進むことはおろかその場に留まることすらできないようで、全員が弾かれていき、徐々にその姿が小さくなっていく。

 そして、気がつけば父さんたちの姿はどこにも無かった。



 Ouroborosの連中や白始友の姿が消えたのを見届けた男は、華怜と俺の方を見る。

「ま、今回はこのくらいにしといたるわ……ってな!」

 そう言ってニヤリと笑う男。その顔は俺と初めて会い、俺を追跡してきた時と同じものだったけど、今は敵意のようなものを感じない。

 いや……そもそも、あの時はOuroborosの襲撃に対して敏感になっていて、この男をOuroborosだと思い込んでいた。

 だから恐ろしく見えたのかもしれない。

 軽薄そうだけどこちらに対する敵意は感じられないから。

 華怜が彼を見て目を見開いたのが気になる。もしかしたら、白始友同様に前世から知っている仲なのかもしれない。


「あ、あの……あなたは……」

 母さんは恐る恐る男に話しかける。

「ん? 俺か? ……って、時間のようやな。」

 男は何か言いかけたが、海の方に視線を向ける。すると、すでに平和連合軍の船が着岸していた。

 先ほどの騒ぎを聞きつけてやって来るのは時間の問題だろう。

「……政府の世話になったら、厳木さんに迷惑かけてまうしなぁ。こん続きはまた今度にしようやないか。助けたんやから、頑張って逃げや?」

 男はそう言うと、華怜に背中を向けて歩き出した。

「今、厳木さんって言ったの? ……やっぱり、あんた……」

 華怜はその背中に向かって話しかける。


 すると男は足を止め、振り返らずに言う。

「今は話してる暇ないねん。堪忍してや。……しゃあけど、生まれ変わっても面影あるもんやなぁ」

 そう言い終えると同時に、ドタドタと平和連合軍の兵士たちが怪我をしている俺たちを見て、救助に駆け付ける。

「ほんなら、またな。雄飛。……姉ちゃん」

 男はその場から歩き去っていった。


 姉ちゃん……? 今、あの男は華怜のことを"姉ちゃん"って言ったのか?

 その華怜はというと、男が去っていった道を見ながら

空乎くうや……」

と呟くのだった。

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