第9話 私は長考したり電話したりする
いつの間にか公園は暗くなっていた。
優子との出会いを思い返しても…優子の好意に気が付かなかった。
思えば、あの時は人の好意を気にしている場合ではなかったので気が付かなくても仕方ないとしか言いようがない。それに私は優子を…。
「待って。」と優子。
「へ?」
優子は掌を前に出して下を向きながら待てと合図をする。
「答えは今じゃなくていいよ。私と百合との関係は長いしさ、それを一瞬で判断できないだろうし、されたくないかな。」
「じっくり考えろと…。」
「そう。」
優子の顔は今まで見た中一番の笑顔だった。
何か胸のつかえが取れたかのような晴れ晴れした笑顔だった。
「んじゃ。言いたかったことはそれだけだから。今はもう顔から火が出そうだから先に帰るっ。」
そういって優子は帰った。
…。
私は動けないでいた。
まさかね。まさか告白されるなんて。
私はてっきり今日は仲直りをしようと思っていたのにまさかの告白。
しかも優子はずっと私を想っていた。
私が優子を好きだったと気付いたのは最近だと言うのに…。
てことは早く告白していれば付き合えていたってこと?
付き合う…。
…。
眞百合の顔が浮かぶ。
タイミングってのはあるんだと私は思った。
どうすればいいんだと頭を抱えて私はその公園を後にした。
×××
休日。
都合よく休日だった。まぁ優子もそこは計算していたのかもしれない。
告白した次の日に学校で会うのは照れてしまうから、次の日が休みの時に告白したのかも。
珍しく…というか、夏休みまで私に近づかないと言いだした眞百合から連絡がないので一日ぽっかりなにもない日ができた。
私は一人ベッドに横たわりながら考え事をする。
「…。」
いつから。私の問いかけに優子は最初からだと答えた。優子との出会いは南場にちょっかいをかけられて助けたのが始まり。
…。つまりあの時にはもう優子は私のことが好きだったのだろうか。
わからない。
…。
仮に優子が好きだとして、どうすればいいんだろう。
いや、悩む必要があるんだろうか。
だって私の初恋相手が告白してきたんだぞ。
これってもう運命でしょ。
いやいや、冷静になれ。
例え初恋だとしても…気付くのが遅かった。気付いた時に告白していれば恋人関係に成れたのかもしれないが最早優子との距離は近すぎて恋だけで片付けられる問題を超えている。
優子の隣。居心地のいい場所。安心できる場所。心の拠り所。
それは私の恋心だった。眞百合に恋した時にその感覚を理解した。
私は密かに優子に恋をしていたんだ。
気付かなかっただけ。いや気付きたくなかったのかもしれない。
でも気付いてしまった。
優子は私を好き。
私も優子のことが好き。
シンプルだ。実にシンプル。
でもならなぜ悩む。
答えは簡単で…。私は今、眞百合に恋してるからだ。
優子も好きだが眞百合も…。
…。
もしかしてだけど私って浮気っぽい女なのか。
「眞百合ぃ。」
枕に顔を埋めながらすりすりと虚しさを紛らわす。
はぁ。
「返事…どうしよ。」
×××
深夜。
なぜか夜になると集中できるタイプなので夜に勉強をする私。
一息ついて寝ようケータイで時間を確認。
ケータイ…。
そういえば…。
机の近くのコルクボードに画鋲で分かりやすい位置に飾っていた。
なんだかんだ言って南場との一件は密かに感動していた。初めての仲直りだし輪南場との関係がいい方向に向くとは思っていなかった。だからそれに答えようと思って分かりやすい位置に置いておいた。
メモに書いてあったのはメールアドレスと電話番号。
この時間は迷惑かなと思いながら、SNSじゃないしいいかとメールアドレスを送信。
『無題:恩納百合です。よろしく』とだけ打った。
すぐに返信が帰って来る。
『タイトル:待ちくたびれましたわ。内容:随分と長かったですわ。待ちくたびれました。電話番号もさっさと教えなさい。』
え?
ま、まあいいけど。
電話番号を添えたメールを送信するとスマホが鳴る。
相手の番号はメモと同じである。
「も、もしもし。」
「ごきげんよう。恩納さん。やっと連絡くださいましたわね。」
「す、すごいね。深夜なのにレス早くて。」
「ば、バカおっしゃい。私だって深夜に起きていることくらいありますわ。しかしなぜ今なのか。」
「ははは。ごめんごめん。最近連絡先貰ってたの思い出して(昨日なんだけどね)」。
「全く。一体私がどれだけまち…。ごほん。いいえ。連絡もらえて嬉しいですわ。」
「う、うん? それならよかった。」
会話が切れそうな気がする。
それはなんとなく早いかなぁと思うと自然に口が開いた。
「あ、あのさ、もし仮に大親友が好きだと言ってきたらどうする?」
「? それは相談ですの? それとも占いとか?」
「ああ、相談相談。と言っても私じゃなくてさ私も相談受けている側でどうアドバイスしていいか分からなくてさ。」
「そんな人間関係問題を私に聞くのが間違いな気がしますわ。」
「で、でも参考にさ。」
「そうですわね…。でもそれってなんだか私とあなたみたいな関係ですわね。」
「へ?」
「あ。」
沈黙。え? いや…。え?
「それって。」
「ち、違いますわ。今のはこっちで視聴中のドラマの声で決して私の声ではありませんわ。わ、忘れてくださいまし!」
く、苦しいよ。
悩みのタネが増えた気が。
「わ、忘れればいいの?」
「べ、別に覚えてくださってもよろしいですけど…今は聞かなかったことにしてくださいまし。」
「う、うん。」
今はってことは今後なにかあるのか?
息を整える南場。
「というわけで、何でしたっけ? 親友が好きだと言われたらでしたっけ?」
「そう。」
「それは…本人次第とあまりためになりそうなことは言えませんけど。…要は恋愛感情があるかどうかを本人が自覚できるかどうかでなくて? 仮に付き合ってから好きになるかもって思うのでしたら別ですけど友情の好きと恋愛の好きはあくまで別カテゴリーですからそれは意識しておかなくてはいけませんわね。親友とはいえ恋人関係になるのであればその関係値次第では相性が合わなかったときに決まづくなって親友どころか避けたくなってしまう相手にもなり得ますから…そこを考えなくてはいけませんわね。」
「だよねぇ。」
心の底からの声にうろたえる南場。
いかん。つい共感できて油断した。
隠す必要はないけど…。一応女の子同士の恋愛って世間ではどういう扱いかわかんないし一般常識を持ってそうな相手には好きな人が、告白してきた人が同性だということは隠しておきたいのだ。…こいつは私のこと好きらしいけど。
でもいいアドバイスを訊けそうなので私は情報を追加する。
「その友人曰く好きな人がいて最初に好きになって後から親友に告白されて親友って思い返せば初恋相手かもって状態らしい。」
「なにそいつ。モテまくりですわね。」
「い、いやぁ。」なんで照れてんだ疑問符が電話越しでも伝わる。
「まあ言えることはどちらにしても一つですわね。嘘はよくないってことですわ。」
「嘘?」
「自分に嘘はよくないってことですわ。あと…。」
「覚悟が必要ってことですわね。」
×××
南場との会話は他にもした。
勉学について。進路について。相談相手にはぴったりだった。
終わり際に「また会って話しましょう。」と南場が言った。
私は「うん」と返事してその電話は終了した。
スマホを机に置いたらそのまま体重を背もたれに掛ける。
手をぶら下げて上を見る。窓から空が見える。
朝になりそうな夜。
夜の空気を吸って吐く。
嘘と覚悟…か。
私の胸に突き刺さる言葉だった。
図星なのか考えすぎなのかもうなにも考えたくない。
今日一日考えすぎて流石に疲れた。
重い足取りで私はベッドに潜る。
今はただ休もう。
明日の私にすべて託そう。
よろしく明日の私。
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