第6話
高校からの帰り。バス停部は週に二回の活動で、今日は休みである。まっすぐ家に帰るのが、寂しく感じるようになっていた。
ロードバイクのことを相談してみると、「そんなに急がなくていいんじゃないかな」と次田さんは言った。私がずっと部活を続けるかどうか疑っているようだった。まあ、私自身も疑っている。
ただ、バス停部を辞めたとしても別の何かを始めるのだと思う。
バス路線は、想像もしていない道を通っていることが多かった。そもそも私の知らない道が多いのだ。
次田さんは、私の地元にも面白い路線があると言っていた。私の知らない、私の生まれた土地のこと。列車は半島の北側を走るけれど、バスは北側にも南側にも路線がある。いつもは見ない景色を、走っていくバスがある。
どうしても気になった私は、「乗ってみよう」と思った。バスのことを知れば、もっと部活が楽しくなるかもしれない。地元のことを知れば、もっと別の町のことを詳しく知れるかもしれない。
そう思ったものの、すでに列車に乗った後だったのがまずかった。列車は宇土駅から曲がっていくのだが、南回りのバスは松橋から出ているのだ。
宇土駅でおりて、乗り換えの電車を待つ。松橋まではたった一駅で、乗る電車を間違えてしまった人みたいだ。
松橋駅に着いても、すぐにバスに乗ることはできない。目的のバスに乗るには、駅前から少し歩かなければならないのだ。バス停に向かうのは、私一人だった。
次田さん言うところの「くぼんだ場所」に、頭の丸の付いたバス停が立っていた。普通の住宅街の中にある、普通のバス停に見えた。待っている人は誰もいない。
この辺りは車で通ったことがあるはずだけど、あまりよく覚えていない。寝ていたのかもしれない。
しばらく待っていると、バスがやってきた。ガラガラだった。いや、老人が三人乗っていた。
バスは松橋を出て、半島の南側を進んでいく。すぐに建物の少ない、田舎の風景になる。バスは右に曲がって、集落に入っていく。そこのバス停で、三人とも下車した。
貸し切りになってしまった。
バスは集落ごとに狭い道に入っていき、誰も乗せずに元の道に戻ってくる。乗降のない、立っているだけのバス停がある。次田さんのような人がいなければ、誰も注目しないかもしれないバス停。
途中、向かい側にバスが停まっていた。そう言えばすれ違うために待避している場合がある、と次田さんは言っていた。見る限り、向こうのバスにはお客さんが乗っていなかった。
私の下りるバス停に着いた。一時間近く乗っていた。料金を入れて、会釈する。目の前に、見慣れた中学校が現れる。
気にしたことはなかったけれど、くぼみのある立派なバス停、なのかもしれない。向かい側にはきれいな待合室もある。
初めて見るものが多かった。ただの帰宅だけれど、結構な旅をした気分だった。
スマホで、バス停の写真を撮る。ああ、いつかデジカメも買った方がいいのかもしれない。
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