第5話

 国道から右に曲がって、また左に曲がる。バスというのは狭い道の方に誘われるものだろうか。

「こっちに曲がるバスが多いんだ。で、また三号線に戻るよ」

「え、じゃあ寄り道なんですか」

「そう。高校があるからかな。それともあっちかな」

 進んでいくと、確かに高校生とよく出会う。そしてバス停にも多くのお客さんがいる。そういうところは立ち寄らずに、次田さんは走り抜けていった。

「見なくていいんですか」

「迷惑かけられないから。自転車止めてじろじろ見るの変だろ」

 カーブを曲がっていくと、右手側に坂の上の校舎が見えた。そう言えばここは、有名な私立高校だ。女の子たちがいっぱい、屋根付きの立派なバス停にいる。

「やっぱ賑やかだよね」

「見せたかったの、ここじゃないんですか?」

「次だよ」

 少し走ると、広いくぼみのあるバス停があった。こういうところは利用客が多いのかと思いきや、一人もいない。

「ここですか?」

「面白くない?」

 ここも屋根付きだ。立派というわけではないけれど、整備されたきちんとしたものに見える。バス停の名前は、「本社前」だった。

「ああ、だから大きいんですね」

「そうだと思う。やっぱり、それもあってこっちも通るんかなあ」

 しばらく写真を撮りながら眺めた後、再び私たちは走り出した。言っていた通り、再び国道に出た。

「こっちから戻ろうか。この先もいいんだけどね」

 国道側にもバス停はあった。本数は少し少ない。やはりバスは、狭い方を好むみたいだ。そして、思っていたよりもバス停の数が多い。数百メートルおきにある気がする。形もどれも同じというわけではなくて、四角い板状のもの、分厚さがあるもの、頭に丸が付いているものと様々だ。

 おもしろさが、わかってきた気もする。

 そして、自転車で初めての道を走るのは単純に楽しい。中学に比べて、世界が格段に広がったのだと実感できる。今までは、狭いところから狭いところにワープしている感覚だった。けれども今は、自分の足でちゃんと進んでいる。

 私は、やはり自転車サイドのような気もする。



「お父さん、欲しいものがある」

 日曜の朝、私は恐る恐る切り出した。父は新聞を読み終え、ボーっとしているところだった。

「何だミチノ、珍しいな」

 昔から私は、おねだりをしなかった。無理を言って買ってもらうのが申し訳ないのと、恥ずかしかったのだ。

「ね、珍しいでしょ。ロードバイクがほしい」

「バイク? 原付か?」

「そうじゃなくて、かっこいい自転車」

「え、こっから自転車通学? さすがにきつくないか」

「そうじゃなくて……部活で使うの」

 嘘は言っていない。

「お前が自転車部かあ。どれぐらいするんだ?」

「え? わかんない」

「そりゃ約束できんぞ」

 確かにそうだ。私は自転車のことをまだよく知らない。先輩の自転車だったら、どれぐらいするのだろうか。

「調べとく」

「安かったら買ってやると約束したわけじゃないぞ。お前は、飽きやすいからなあ」

 確かに私は飽きやすい。続けらるのかどうか、自分でも不安になってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る