第7話

「次田さん、部活入ってる?」

 放課後、突然クラスメイトの……青田君に聞かれた。背が高くて髪が短くて、今まで話したことはなかった。

「え、まあ……」

「忙しいとこ?」

「忙しくはないけど」

「陸上部入らない? なんか足速いって聞いてさ」

「そんなことないよ。それに、きつそうなとこはちょっと。あ、今日は部活ある日だから」

 そう言うと私は、手を振りながらそそくさとその場を去った。今日は部活がない日だ。

 まさか私がクラスメイトに部活に誘われるとは思ってみなかったし、それが運動部でびっくりした。ただ、考えてみるとバス停部もきついことはある。次田さんは健脚で、たまについていくのが大変だ。出かける距離もだんだん伸びている。

 体力がついてきたようにも思う。足も速くなったのかもしれない。もっと体力を付ければ、もっと遠くに行けるはずだ。

 少し寄り道をして駅に行こう、と思った。



「自転車、見に行く?」

 夏も迫ってきたある日、次田さんがそう言った。

「あ、はい!」

 ついに許可が出た、という感じだった。私に辞める様子がない、と判断されたのだろう。

「せっかくだから、バスに乗って行こうか。買った自転車で帰るかもしれないしね」

 そんなわけで私たちは、バスで出かけることになった。バス停部としては初めてバスに乗るのである。

 まずはバスセンター行きに乗車した。

「俺も久々だなあ。乗るのも好きなんだよね」

「知っていました」

 確かに、バスに乗るとバス停はすぐに過ぎ去っていき、じっくり見ることができない。ただ、車窓を見るのも楽しい。バスはやはり狭い道を縫っていき、電車通りに出る。

「市電は興味ないんですか?」

「もちろん好きだよ」

 終点、バスセンターに到着する。大きな商業施設の下にある、巨大なバスのアジトである。最初来た時は、その巨大さに圧倒された。そして、なかなか目的の場所にたどり着けなかった。地元付近にあるバスセンターは、バスがいっぱい来るというだけで、ただっ広いということはない。

「ここも好きですか?」

「ここは少し苦手。迷う」

「なんか安心しました」

 次のバスに乗り換える。思ったよりも遠いようだ。

 十五分ほどバスに揺られ、私たちは降車した。すぐそばに、おしゃれな自転車屋があった。

「ここですね」

「お気に入りの店なんだ」

 中に入ると、たくさんの自転車が並んでいた。しかも、ロードバイクが多い。これはきっと、自転車好きが集ってくるところだ。

 じっくりと店内を見て回る。全く手が出ない値段のものもあったけれど、「買えたら」という前提で眺める。

 二階もじっくり見て、自転車の世界を一気に摂取した。たぶん、私はバス停よりも自転車を研究した方が楽しめる。

 一階に下りてくると、次田さんがレジで会計をしているところだった。

「何を買ったんですか?」

「いや、手袋を。前から欲しくてさ。ついついなんか買っちゃうんだよなあ」

「それ、私もそういう風になる可能性ありってことですか?」

「まあ、大いにありだね」

「それは困りました」

 ああ、先輩は両側サイドの人なんだ、とわかった。バス停も自転車も、存分に楽しんでいる。

 結局ロードバイクについては決められなかった。もう少し、悩むのを楽しもうと思う。

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