第2話 運は貯金できる?

 「運は貯めるものだ」


 そう言った彼は、相変わらず不敵な笑みを浮かべていた。


 「……運って、貯金みたいなものなの?」


 私が恐る恐る聞くと、彼は頷いた。


 「そう。運がいい人っていうのは、実は過去にちゃんと“運の貯金”をしてるんだ」


 「そんなの、聞いたことないけど……」


 「普通は意識しないからな。でも、試しにやってみたらわかる」


 彼は軽く指を弾いた。


 「例えば、コンビニでお釣りを募金してみるとか、困っている人に席を譲るとか。小さなことでいいんだ。誰かのために動くことで、運は少しずつ貯まっていく」


 「ふーん……」


 なんとなく胡散臭い。でも、どうせ今の私は運がないんだ。信じてみるのもアリかもしれない。


 「でもさ、貯めるだけじゃ意味なくない?」


 「お、いい質問だな」


 彼はニッと笑った。


 「運は貯めるだけじゃダメなんだ。ちゃんと使いどころを見極めないと」


 「使いどころ?」


 「そう。必要なタイミングで、一気に使う。それが“運の引き出し方”ってやつだ」


 「……そんなの、どうやってわかるの?」


 「簡単だよ。ワクワクする方を選べばいい」


 彼はそう言って、私の目をじっと見つめた。


 「運が貯まってくると、自然と“こっちに行きたい”っていう直感が働くんだ。それに従うだけで、物事がうまく回り始める」


 「……本当に?」


 「信じるか信じないかは君次第。でも、試してみたら?」




 次の日から、私は彼の言葉を半信半疑で試してみることにした。


 コンビニでお釣りを募金する。道に落ちていたゴミを拾う。エレベーターで「開」ボタンを押して誰かを待つ。


 そんな些細なことを続けていくうちに、不思議なことが起こり始めた。


 いつもは満員で乗れないバスに、ちょうどいいタイミングで乗れた。


 忘れていた懸賞に当選して、ちょっとしたギフトカードが届いた。


 落ち込んでいた日に、久しぶりに友人から連絡が来た。


 「……え、もしかしてこれ、運が貯まってる?」


 あのイケメンの言葉を思い出す。


 “ワクワクする方を選べ”


 これから、私の人生は少しずつ変わっていくのかもしれない——。

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