運の神様、恋をする

まさか からだ

第1話 運がない女

 「え、また落ちた……?」


 スマホ画面に表示された「不採用」の二文字を見て、私は思わずため息をついた。就職活動を始めてもう半年。応募した会社は数え切れないほどあるのに、一向に内定がもらえない。


 「どうしてこうも運が悪いのよ……」


 机の上に転がるスクラッチくじを見て、思わず苦笑した。景気づけに買ってみたけど、もちろんハズレ。まるで今の私の人生そのものみたい。


 恋愛も仕事も、何をやってもうまくいかない。彼氏がいたのなんて、もう何年前の話だろう。


 ふと、SNSを開くと、友人たちが華やかな日常を投稿していた。結婚報告、昇進祝い、海外旅行。みんな順調に人生を歩んでいる。


 「いいなあ……」


 ため息をつきながら、スマホを置いた。


 このままじゃダメだ。気分転換に外へ出よう。




 夜の公園はひんやりとした空気が気持ちよかった。ベンチに座ってぼんやりと夜空を見上げる。


 「星がきれい……」


 しんと静まり返った公園。遠くの街灯がぼんやりと光り、まるで別世界にいるみたいだ。


 「そんなに落ち込むなよ」


 突然、すぐ隣から低く甘い声がした。


 「……え?」


 驚いて振り向くと、そこには見たこともない男性が立っていた。


 夜の闇に溶け込むような黒髪。月明かりを反射する鋭い瞳。モデルみたいに整った顔立ちをしているのに、どこか神秘的な雰囲気を持っている。


 「……誰?」


 「運の神様、かな」


 「は?」


 突然の言葉に、思わず聞き返した。何、この人?ナンパ?それとも怪しい勧誘?


 「まあ、信じなくてもいいけどさ」


 男はふっと微笑むと、私の顔をじっと覗き込んできた。


 「君、最近ツイてないだろ?」


 「えっ……」


 心臓が跳ねる。どうしてそれを?


 「宝くじも当たらないし、仕事も決まらない。恋愛なんてもう何年も遠ざかってる」


 「な、なんでそれを……」


 彼は私の驚きには答えず、じっとこちらを見つめた。


 「運っていうのはな、貯金みたいなものなんだよ」


 「貯金?」


 「そう。いい行いをすれば運は貯まる。だけど、お金と同じで使い方を間違えると一瞬でなくなる」


 「……つまり、私は運の使い方を間違えたってこと?」


 「そんなところかな」


 男はニッと笑った。


 「でも、まだ間に合う。運を取り戻したければ、俺が教えてやろうか?」


 そう言って、スッと手を差し出してきた。


 夜の闇の中、彼の手だけが異様に輝いて見える。まるで、そこに触れたら何かが変わるような、そんな予感がした——。

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