女の子必勝の日
夕山晴
第1話
「どうしたの、久しぶりに帰ってきたと思ったら雛人形を飾りたいって? 仕事は?」
「いいでしょ。仕事は有給」
「ふうん、それはいいけどねえ。カスミが中学生の頃、雛人形を嫌がって飾りたがらなかったじゃない」
「う! そ、それは」
「なんだっけ、そうそう近所のユウくんに振られたとかなんだって……雛祭りの日に告白したんだっけ?」
「っ、いい加減に忘れてくれたっていいでしょ!?」
「忘れるわけないでしょうが。こんな面白い話」
「ひどい!」
「ひどくたっていいの。いつまでも娘の話は覚えておきたいもんなのよ」
物置きの奥にしまわれた大きな箱を取り出して、ひな壇を組み立てる。赤い布——緋毛氈を敷けばあっという間に存在感が増す。雛祭り、女の子のためのお祭りだ。
——だから、中学生の私は勘違いしてしまった。
女の子のためのお祭りの日だから、きっと幸せになれる。告白だって成功するなんて、そんな夢を見て。
一番上には親王台、その上に男女の人形を座らせた。小さくとも精巧に作られた冠や剣、扇も身につける。
母と何気ない会話をしながら、他の壇にも人形と小物を置いていく。
「ん、劣化が心配だったけど、まだまだ綺麗ねえ」
「……ごめんね、せっかく買ってくれたお雛様、もっと飾ればよかった」
七段きっちり飾りつければ、華やかで美しく圧倒される。
——その存在感に、否応なく振られた過去を思い出すから、だから飾られるのが嫌だった。
あまりに若かった自分自身を鼻で笑って。
もう一度綺麗に飾られたお雛様を目に焼き付ける。
隣にいる母も、久しぶりに雛人形を飾ったからか、嬉しそうに見えた。
「いいの。女の子を守ってもらうための人形なんだから。あんたが今、元気で大きくなってくれて、この人形も役目は果たしてるわけよ」
「ふーん。そんなもん?」
「そんなもんよ」
大学生の時、父が家を出て行った。一番お金がかかる時だったと思う。清々したなんて笑っていたけど、母にも心配や不安はあったろう。ただその姿を見たことはない。
——どんな顔をするだろうか。驚くだろうな。喜ぶかな、さすがに泣かないだろうけど。
「ねえ、明日連れてきてもいい? 私が結婚したい人」
明日は三月三日——女の子のための日だ。
女の子必勝の日 夕山晴 @yuharu0209
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