第5話 忘れられし誓約

霧深き呪忌の森、その奥にて、朽ち果てし戦士が立っていた。彼の鎧は砕け、黒き霧を纏い、胸には虚ろなる闇の穴。


「……指輪を、どこで手に入れた……」


声は低く、死者の呻きのようであった。


「……俺の主が持っていたものだ。公爵ヴェルノンがな」


ガウデリウスは指輪を握る。銀に刻まれた紋章が、微かに光を帯びた。


「ヴェルノン……」


亡者は小さく震えた。黒き霧が渦巻き、鎧の隙間より怨嗟の声が漏れ出す。


「……運命は、繰り返す……お前もまた、その鎖に囚われたか……」


亡者は大剣を地に突き、身を起こす。眼窩の奥で暗き火が揺れた。


「試練は終わった。我が刃、お前を討たず」


「……どういうことだ?」


ガウデリウスは剣を下ろさぬまま問いかける。亡者は死した者にしては、あまりに知性を帯びていた。


「お前が公爵の無念を晴らすならば……道を示そう」


亡者は朽ちた手を差し出した。その掌には、黄金に錆びたメダルが眠っていた。


「これは……?」


「古き証。我らが遺した、儚き誓いの残滓よ……」


ガウデリウスはメダルを握る。冷たく、重い。それは、途絶えた意志の欠片。


「……なにか知っているのか?この王国の真実を」


亡者の瞳に映るのは、彼が見た過去か、あるいは滅びの運命か。


「今はまだ、知る時に非ず……されど、いずれ汝は戻ってくるであろう。その時、すべてを語ろう……」


黒き霧が亡者を包み、再び静寂が森を支配する。


やがて、誓約の鎖は彼を導く。されど、それが救いか呪いかは、未だ誰にもわからぬ──。


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