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バイト人間、と。


俺はバイト先でそう呼ばれてるらしい。




別に不思議なことじゃない。

都会に憧れて田舎から上京して来たくせに、花の大学生ライフを満喫せず生活のためにスーパーのバイトを週六日入れてたらそう言われても仕方なかった。

しかしスーパーのバイトも楽じゃない。

主な仕事はレジ打ちと荷出し作業。

女子はレジ打ちがメインなのに対し、男は力があるってだけで主に荷出し作業の方が多かった。

自慢ではないが、成人男性の平均身長に満たない俺にとって力仕事は苦痛以外の何者でもない。

しかも偶に面倒臭い客が来て横からケチ付けて来るわ、おばちゃん連中は値下げシール貼れとか煩いわでストレスは溜まる一方。

それでも辞めないのは、都会は田舎と違って自給が良いからだ。

これで自給1200円じゃなかったら確実に辞めているところだ。




「いらっしゃいませー」




そして今日もまた営業スマイルを作り上げる。




でも頭の中を埋め尽くすのは、破壊力抜群の極上の笑顔とあの言葉。






『なら、私の家に来る?』






その提案は喉から手が出るほど有難いものだった。

色々と切羽詰っていた俺はよく考えずにその提案に食い付いてしまったが、冷静に考えたら本当にこれで良かったのかと不安に駆られる。

見吉さんは優しいから困ってる俺を見過ごせなかったに違いない。

でも見吉さんは女で、俺は男であるわけで…。

あの時の俺に下心はなかったとは言え、見吉さんの提案を受け入れたのは安易だったかもしれない。

それに実家暮らしの見吉さんは家族の了承も取らなきゃいけないだろうし、いきなりただの男友達が、しかもこんな田舎者がお邪魔したら家族の人達だって迷惑に思うに決まってる。




何より、見吉さんの負担になりたくなかった。




見吉さんに迷惑を掛けたくない。


見吉さんにだけは嫌われたくない。




(……つくづくヘタレだな、俺)




「見吉さん…」


「何?」


「っ!?」




その声にバッと振り返る。

するとそこにはつい先程まで心中を占めていた彼女が立っていた。




「な、な…っ」




まるで妄想が具現化したかのような都合の良い彼女の登場に心臓がバクバクと踊り出す。




「吃驚した?驚かせてごめんね」




ええ、そりゃもう吃驚しましたとも。

まさか見吉さんのことを考えてる時に本人が現れるなんて誰も思わないだろう。




「ドッキリ大成功」




そんな俺の心境なんて露知らず、見吉さんは悪戯が成功した子供のように可憐に微笑んだ。




「……かっわい」


「ちょっとそこ、心の声駄々漏れよ」


「あ、サーヤいたんだ」


「初めからいたわよ!」

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